絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「休みなんだ。暇?」
 彼女を同居に誘いながらも、結局自ら退いたこの二年、何度か連絡をとった。その度にユーリと3人で食事に行った。
 連絡をとり、会えば会うほど、家を出たことを後悔する。真籐にの座を明け渡したことを後悔する。
 だけど、真籐のことは信じているし、あの時はあの時で辛かったのだから仕方ない、と自分に言い聞かせてきた。
 がむしゃらに働き、功績を上げれば弾んだ声で尊敬してくれるのか、酒を浴び、手当たり次第女を抱けば、優しい声をかけてくれるのか。
 考えすぎて頭が痛くなった。
 しかしその甲斐あって、今の落ち着いた自分がある。
今週の火曜日は、珍しく休みをとった。ユーリに、彼女が休みだということを確認させてから日にちを合わせてとった。
「うん暇ー。ランチ行きたいなーって思ってたとこ。ホテル行こうよ、レイジさん。都ホテルの中のパスタ食べたい!!」
「あー、あそこ? けっこう安いところだよね」
「そうですけど、それが何か?」
「いや(笑)。行こう」
「え、バレる?」
「大丈夫だよ」
 もう、友人としてしか完全にみていない彼女はこうやって簡単に約束をしてくれる。火曜日休みだからと知っていて、ちゃんと確信して休んだ俺とは、心持ちが違う。
 きっと、彼氏とランチに行く時は、ワンピースを着て、珍しくフルメイクをしていつも以上に人目を引く存在になっている。その隣にいるのは、大人の彼氏。どんな彼氏か見たことはない。話によると、二枚目の経営者ということだが……そういう世界にも顔がきく自分が知らないのだから、大したこともないのだろう。
 海沿いに建つ都ホテルは都内から一時間ほどかかり、ドライブがてらのランチ、そして砂浜を散歩してのカフェという王道なデートコースにぴったりの場所で、常に人で賑わっている。
もちろん、今日のランチもビップルームを予約して、一味違うランチを食べさせるつもりだ。
「オープンカーだー!! こんな車、持ってたっけ?」
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