絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 と、にこやかに白のパンツ姿で現れた彼女は、髪を結い上げており、行き先がホテルのランチのせいか、随分おしゃれをしていた。
 そう、普段はちょっと出かけるくらいならほとんど装飾をしないのだが、する時はする女で、それが似合うのだ。
「今日は随分おしゃれしてきたね」
 感じたままを言う。
「え、まあ、たまには(笑)。光栄だね、おしゃれな芸能人に褒められるなんて」
「いやまあ、いつも家着が多いから(笑)」
「それが同居ってもんでしょう!?」
 彼女は上機嫌だ。といって、不機嫌なときが特にあるわけではない。
「風が気持ちいいねー。焼けそうだけど」
「多少はね」
 彼女が隣にいるだけで満足で、つい言葉数が減ってしまう。
 たまの彼女との食事は、ユ―リが必ずいる。もちろん邪魔とは言わない。それこそ、彼女が落ち着くための存在なので重要な存在であるし、自分に歯止めをかけてくれる人物なのだが、多少腑に落ちないメンツでもあった。
 それが今日は2人きり。2人きりで食事にでかけるなんて、いつぶりだろう。いつか、偶然スタジオの近くでお茶したあれが最後であったのではないだろうか。
 車内は風があり、近くで会話するのも困難なので、2人は終始黙って、信号待ちの度に短い会話を交わす程度だった。
 そんな一時間はすぐに経過する。
「着いた着いたー、この前ね、久しぶりに行こうと思ったんだけどさー。2時のラストオーダーに間に合いそうになくって諦めたんだよねー」
「ビップルームなら時間は気にしなくていいよ」
「それはお金と力がある人だけが使える手でしょー」
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