絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

　店舗のレイアウトはどこもほぼ同じなので、普段売り場に立つ最上の夫ももちろん知っているはずだった。だが、勤務中の香月は深くは考えず、
「えーと……」
　と、先頭に立って客と同じように案内することにする。しかし夫は、隣の位置をキープすると、そのまままた話しかけてきた。
「今日香月さんがここの店舗に来ることは知ってましたよ、メールで案内がきてたから」
「あ、そうだったんですか。最上が……春奈さんが来たいって言ったんですね。連絡してくれればいいのに」
　笑って返した。
　だが夫は、
「いえ別に、春奈は関係ないですけど」
　何が言いたいのか、つい構えてしまい、
「そうですか」
と、早口言葉になる。
「まあ、春奈と来たら話しもできるかな、と」
「……あ、そうですよね。いつもあの、最上さんが出社の時に遊びに行かせて頂いているので、お会いしたこともなかったですよね……」
返答はこれで合っているだろうか、不安になりながらも、とりあえず言い切る。
「この前は西野君も来てたみたいですね？　僕、同期なんですよ」
　ということは、年は同じか……。西野とは年は同じだが、入社歴が１年違う。
「あ、そうなんですか。あっ、私たちは昔から３人で仲がよくて……」
　もしかしたら、西野のことを疑っているのかもしれないと感づいた香月は、あえて説明を続けた。
「西野さんの子供も、もう大きくなってて。お店でいるとあんまり分からないんですけど、子供さんといると、すごくお父さんになってて、ビックリします」
　メディアのコーナーへはとっくにたどり着いているが、夫の目当てはそれではなさそうだった。
「皆結婚して……僕も自分がまさか自分が結婚なんてすると思ってなかったから、ちょっと自分でもびっくりしてますよ」
　話がかみ合っていない気がしたが。
「……そうですか……」
　以外に何も浮かばない。
「結婚とか子供っていいもんですけどね、ちょっと窮屈、というか」
　傍目にはとりあえずメディアを模索している2人に見えたかもしれないが、香月は最上という人物のことがよく分からなくて、視線を泳がせてばかりいた。
「そうですか……」