絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
宮下の声が後ろから聞こえて、思わず少し、振り返った。彼は階段を昇る妻の手をさっととったところだった。
自分は今どんな顔をしているか、確認する暇もなかった。
「9月に産まれる予定なんだ」
宮下はこちらを見ないまま言った。
「……あ……おめでとうございます。そうですよね、おなかが大きいなあと思っていました……」
正直に言う。
「うん……」
これ以上会話が続かないし、丁度店舗の前まで来たので、話す必要もない。
「じゃあ」
宮下は随分紳士ぶって香月と別れた。
夫妻は店舗の中の飲食ブースへ入って行く。
独身の香月を、一人置いて。
「いらっしゃいませ」
ショーケースの向こうから店員の機械的な挨拶が聞こえたことにほっとしながら、香月はプリンをいくつ買おうか考えていたのを何秒かかけて、ようやく思い出した。
自分は今どんな顔をしているか、確認する暇もなかった。
「9月に産まれる予定なんだ」
宮下はこちらを見ないまま言った。
「……あ……おめでとうございます。そうですよね、おなかが大きいなあと思っていました……」
正直に言う。
「うん……」
これ以上会話が続かないし、丁度店舗の前まで来たので、話す必要もない。
「じゃあ」
宮下は随分紳士ぶって香月と別れた。
夫妻は店舗の中の飲食ブースへ入って行く。
独身の香月を、一人置いて。
「いらっしゃいませ」
ショーケースの向こうから店員の機械的な挨拶が聞こえたことにほっとしながら、香月はプリンをいくつ買おうか考えていたのを何秒かかけて、ようやく思い出した。