絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
言われて気づく。そうだ、自分は宮下と付き合っていたとき、明らかに巽と浮気をした。
「……そだね」
気づかれないように、目を逸らす。
巽はさも愉快そうに、静かに笑った。
彼は、対面して腰かける香月の目の前で、淡々と麻婆豆腐とから揚げを次々食べていく。時々、料理の手順を聞いたり、素直においしいと感想を述べたりするが、その日の香月はそんなありきたりの言葉では笑えないくらい、心が硬直していた。
巽がそれにきづいていることに、香月も気付いており、食事は無言で淡々と平らげられていった。
「今日は何が言いたくてここへ?」
最後の一口を食べ終わる前に、巽は聞いてくる。
「……別に……何もないよ」
その一言で巽には、不機嫌なのがばれているだろう。
「先風呂入ってまた帰るか?」
思い出す、そういえばそんな日もあった。ただ巽はそんなことも、どうでもよさそうに、自分で冷蔵庫から缶ビールを出すとすぐに一口飲んだ。
「……今日は……」
「今日は?」
巽はソファに腰掛け直し、もう一度ビールを飲む。
「今日は何もしたくない、から……。ただ一緒に寝たいだけ。だから……先、お風呂入るね」
「お好きに」
呆れたのかもしれない。そんな声だった。
香月がキッチンの片づけをせずにリビングから出ても、巽はそのソファから動こうとする気配はない。
仕方なく、入れてあった湯に一人広い湯船で浸かり、目から流れた涙を拭いた。どういう意味の涙かは分からない。だが、なんとなく鼻の奥がつんとなって目が潤んだ。
息を吸って吐いて、ため息を一つしてから、立ち上がる。
……、先に寝よう。
ざっと体を拭くと、いつもの真っ白いバスローブを羽織ってそのまま寝室に入る。予想外にも、すでに巽はキングサイズのダブルベッドの上で寝転び、テレビを見ながら寛いでいた。
「……」
「……そだね」
気づかれないように、目を逸らす。
巽はさも愉快そうに、静かに笑った。
彼は、対面して腰かける香月の目の前で、淡々と麻婆豆腐とから揚げを次々食べていく。時々、料理の手順を聞いたり、素直においしいと感想を述べたりするが、その日の香月はそんなありきたりの言葉では笑えないくらい、心が硬直していた。
巽がそれにきづいていることに、香月も気付いており、食事は無言で淡々と平らげられていった。
「今日は何が言いたくてここへ?」
最後の一口を食べ終わる前に、巽は聞いてくる。
「……別に……何もないよ」
その一言で巽には、不機嫌なのがばれているだろう。
「先風呂入ってまた帰るか?」
思い出す、そういえばそんな日もあった。ただ巽はそんなことも、どうでもよさそうに、自分で冷蔵庫から缶ビールを出すとすぐに一口飲んだ。
「……今日は……」
「今日は?」
巽はソファに腰掛け直し、もう一度ビールを飲む。
「今日は何もしたくない、から……。ただ一緒に寝たいだけ。だから……先、お風呂入るね」
「お好きに」
呆れたのかもしれない。そんな声だった。
香月がキッチンの片づけをせずにリビングから出ても、巽はそのソファから動こうとする気配はない。
仕方なく、入れてあった湯に一人広い湯船で浸かり、目から流れた涙を拭いた。どういう意味の涙かは分からない。だが、なんとなく鼻の奥がつんとなって目が潤んだ。
息を吸って吐いて、ため息を一つしてから、立ち上がる。
……、先に寝よう。
ざっと体を拭くと、いつもの真っ白いバスローブを羽織ってそのまま寝室に入る。予想外にも、すでに巽はキングサイズのダブルベッドの上で寝転び、テレビを見ながら寛いでいた。
「……」