絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 ニュース番組のアナウンサーの声がスピーカーから部屋中に響く。
 香月にとって、それは恐ろしい沈黙であった。何か会話ができるチャンスであり、その会話で自らの首を絞めかねないタイミング。
「……今日はどうした? 何が気に入らない」
 何が……。
 考えながら、ベッドの隅に腰掛けた。
「……」
 返したい言葉が見つからない。どういう風に会話を続けるべきかが分からない。
「……ねえ、結婚したいとか言われたことない?」
 首を絞めるかもしれない。分かっていても、それでも、種を蒔こうとする自分がいた。
「ないな」
「私が初めて?」
「ああ」
「ほんと?」
 それがうれしくて、つい何も考えずに、笑顔になり、ベッドに上がり込んでしまう。
「俺と結婚するということが、どういうことかわからずに結婚したいと言ったのはお前くらいだ」
 巽はテレビから目を離さずに、リモコンでさっと画面を切り替えた。出たのはやはり、ニュース番組。
「何それ……? そんなことないよ。結婚ってどういうことか分かってるつもりだよ? そりゃ、一度もしたことないから多少誤差はあるかもしれないけど」
 巨体が突然動き、どきりとする。巽は香月と対面になるようにサイドテーブルの隣にあるソファに腰掛けなおすと、テーブルの上に置いてあったタバコに火をつけた。
「お前はどうして俺と結婚がしたい」
 初めて単刀直入に聞かれた。
 大丈夫、思っていることをそのまま言えばいい。
「どうしてって好きだから。絶対守ってくれると思うし。お金も心配しなくていいし。……健康だし」
 正直に言う。
「結婚して、傷つける場合もある」
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