絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
『あの、もしもし、香月さんですか?』
「はいそうですけどあの……」
『すみません、今回はこんなことになってしまって。あの、僕今駅ビルの近くにいるんですけど、どこにいますか?』
「あの、私今駅ビルから出るところです。けど、あの、ほんと気を遣わなくてもかまいませんから! 今井さんとはまた次回でも構いませんし」
『いえこちらこそ、ほんっと申し訳ないと思ってるんで……。あの、今携帯で電話してる方ですよね。黒いブラウスの』
「え、あ、はい」
しまった、相手に見つかったと、きょろきょろする。が、編集者が普段どんな格好をしているものか、香月はよく知らない。
『あ、はい、分かりました。一旦切ります』
ということは、わりと遠くから発見されたのだろうか?
しばし待つ。
「すみません、お待たせしました」
意外にも背後から数秒遅れて現れた男は、黒い短髪にスーツ姿でただのサラリーマンっぽいが、白い広い額と凛々しい眉毛が、若さと清潔感を醸し出していた。
「え、あ、こんばんは……」
「こんばんは。私は紺野と申します。今日は突然すみません」
紺野と名乗った男はさっと名刺を出した。
「えっ、あっ、すみません。私も名刺……」
「いえいえ、構いませんよ。僕が怪しい者じゃないって分かってくれればそれで」
名刺をもう一度よく見た。そこには聞いたこともない出版会社の名前と、紺野 総の名前と電話番号が書いてある。肩書きはないらしい。
「店はすぐそこです。とりあえず、入ってから話しませんか?」
「あ、はあ……」
まあ、今井がせっかく用意してくれた会だし、ここは今井の顔を立てるつもりでと、紺野の後に従った。
カウベルがついたドアを潜り抜けた小さな店は、イタリアンな隠れ家的雰囲気で、想像以上に客が入っていた。空席もいくつかあったが、今井は既に2人で予約していたようである。そのために、紺野を用意したのかもしれないと今になって考え始めた。
2人はカウンター席に並んで座り、アルコールとピザを注文すると、ようやく落ち着いて話を始めた。
「あの、今井さんの弟さんなんですか?」
苗字が違うのは、弟の方が婿養子だとか、やっぱり弟じゃないとか、いろいろパターンを予測して聞く。
「いえ、違いますけど、弟みたいな扱われ方です。もう知り合って長いんですよ」
「でも、お若い……ですよね?」
「そんなことないですよ。29です」
「はいそうですけどあの……」
『すみません、今回はこんなことになってしまって。あの、僕今駅ビルの近くにいるんですけど、どこにいますか?』
「あの、私今駅ビルから出るところです。けど、あの、ほんと気を遣わなくてもかまいませんから! 今井さんとはまた次回でも構いませんし」
『いえこちらこそ、ほんっと申し訳ないと思ってるんで……。あの、今携帯で電話してる方ですよね。黒いブラウスの』
「え、あ、はい」
しまった、相手に見つかったと、きょろきょろする。が、編集者が普段どんな格好をしているものか、香月はよく知らない。
『あ、はい、分かりました。一旦切ります』
ということは、わりと遠くから発見されたのだろうか?
しばし待つ。
「すみません、お待たせしました」
意外にも背後から数秒遅れて現れた男は、黒い短髪にスーツ姿でただのサラリーマンっぽいが、白い広い額と凛々しい眉毛が、若さと清潔感を醸し出していた。
「え、あ、こんばんは……」
「こんばんは。私は紺野と申します。今日は突然すみません」
紺野と名乗った男はさっと名刺を出した。
「えっ、あっ、すみません。私も名刺……」
「いえいえ、構いませんよ。僕が怪しい者じゃないって分かってくれればそれで」
名刺をもう一度よく見た。そこには聞いたこともない出版会社の名前と、紺野 総の名前と電話番号が書いてある。肩書きはないらしい。
「店はすぐそこです。とりあえず、入ってから話しませんか?」
「あ、はあ……」
まあ、今井がせっかく用意してくれた会だし、ここは今井の顔を立てるつもりでと、紺野の後に従った。
カウベルがついたドアを潜り抜けた小さな店は、イタリアンな隠れ家的雰囲気で、想像以上に客が入っていた。空席もいくつかあったが、今井は既に2人で予約していたようである。そのために、紺野を用意したのかもしれないと今になって考え始めた。
2人はカウンター席に並んで座り、アルコールとピザを注文すると、ようやく落ち着いて話を始めた。
「あの、今井さんの弟さんなんですか?」
苗字が違うのは、弟の方が婿養子だとか、やっぱり弟じゃないとか、いろいろパターンを予測して聞く。
「いえ、違いますけど、弟みたいな扱われ方です。もう知り合って長いんですよ」
「でも、お若い……ですよね?」
「そんなことないですよ。29です」