絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「はい、チーズケーキ」
「おっ、今日はホールじゃん! まあそれくらいの価値のある仕事はしたわね」
「……」
 芹沢奏は、編集者用のスーツの上着を脱いでから、ソファであぐらをかく今井の隣に溜息をつきながら腰掛けた。
「にしてもさあ、奏ちゃんがこんなに入れ込む女の子も初めてよねえ。よかったわね、私の部下で」
 熱はないが、ホームウェアの今井は自慢げに立ちあがると、キッチンの食器棚から2枚の皿とフォークとナイフを取り出し、ソファの前のテーブルの上に並べた。
「で、次の約束はしたの?」
 ケーキはすぐに箱の中でナイフでカットされていく。
「とりあえず、次は3人でって」
「えっ、3人? 私?」
「……まあ」
「えー、また私、ドタキャン??」
「いや、とりあえず3人でいいと思う」
「まあねえ。何回もドタキャンって私、仕事できなくなっちゃう。
で、どうだった? もうね、色々考えたのよぉ。ランチからこの、飲み会の流れ? ほんっと香月さんとあんまり喋ったことないから突然仲良くして嫌われたらどうしようかと……」
苦労を喋くる今井の隣で、
「まあ……」
 と、だけ芹沢は答えた。
「まあってね、どうだったわけ?? 何話したの??」
「何って……今井さんは結婚しない主義です、とか」
「何それー!?!? 私はね、しないんじゃなくて、相手がいないの!」
「あそう、そう言った」
「何で言うのよー!!」
「え、何で?」
「まあ、いいけどー。で、それから?」
「彼氏がいるとは言ってた」
「えっ、そ、そうなんだ……すごいね、それでも諦めずに次の約束したんだね」
 彼女はようやく口を動かすのを一旦停止し、ケーキを皿に盛ると、そのうちの一枚を前に差し出した。
「いや、いらない」
「え!? いらないの!? いらないなら乗せる前に言ってよー……お皿汚れちゃったじゃない」
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