絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
8月1週目の木曜日。芹沢は、ある事件の容疑者が東京タワーの展望台で現金の取引を行うという情報に基づいて、仕事をしていた。午後9時の一般客が多い時間帯に紛れた大胆な取引になるので、十数名の私服刑事が現場で待機している。
犯人の特徴を頭に刷り込ませ、エレベーターから降りてくる人物の人相と服装をチェックする。情報での予定時刻は午後9時だが、現在は9時5分。まだまだ分からない。
気を引き締めてエレベーターの降り口を睨む。
ポンと、軽い音が鳴り、次に出てくるのではと、目を凝らす。
「!?」
思わず声を出すところであった。
見違えた。いや、問題はそんなことではない。
女は完全に男に強く腕を巻きつけ、体重をかけながら歩いている。
髪の毛はアップに結い上げられ、前回見たスーツ姿とは全く違う、淡い花柄のワンピースでの登場に、視線はそこから離れない。
いや、問題はそんなことではない。その隣にいる長身の男。あれは間違いなく巽光路だ。
『東通路、発見しました』
耳から聞きなれた声が聞こえ、驚いて、東側を見た。幾人かが、東の方へ小走りする姿が見える。
しかし、今日の自分の持ち場はここだ。下に降りるにはエレベーターと階段があるが、今しばらくはエレベーターのまん前でいることを勝手に決意する。
そのカップルは一番隅に場所をとると、立ったまま夜景を眺め始めた。
香月はしきりに巽を見上げ、顔をどんどん寄せていく。しかし、巽は前を向いたままだ。
芹沢はたまらなくなり、エレベーターから少し離れ、香月達の方に背を向けたまま寄った。
「ねえ……キスしたい」
酔っているのか、舌ったらずの甘い声がまず聞こえた。
「こんなところで?」
「えー……、知らない人ばっかりじゃん。知ってる人、いた?」
「……いいや」
「じゃあいいじゃんキスくらいー」
「そんなにしたいなら、その次も見せつけてやるか?」
「それは、変態。私はただの乙女です」
「変わらんだろう?」
犯人の特徴を頭に刷り込ませ、エレベーターから降りてくる人物の人相と服装をチェックする。情報での予定時刻は午後9時だが、現在は9時5分。まだまだ分からない。
気を引き締めてエレベーターの降り口を睨む。
ポンと、軽い音が鳴り、次に出てくるのではと、目を凝らす。
「!?」
思わず声を出すところであった。
見違えた。いや、問題はそんなことではない。
女は完全に男に強く腕を巻きつけ、体重をかけながら歩いている。
髪の毛はアップに結い上げられ、前回見たスーツ姿とは全く違う、淡い花柄のワンピースでの登場に、視線はそこから離れない。
いや、問題はそんなことではない。その隣にいる長身の男。あれは間違いなく巽光路だ。
『東通路、発見しました』
耳から聞きなれた声が聞こえ、驚いて、東側を見た。幾人かが、東の方へ小走りする姿が見える。
しかし、今日の自分の持ち場はここだ。下に降りるにはエレベーターと階段があるが、今しばらくはエレベーターのまん前でいることを勝手に決意する。
そのカップルは一番隅に場所をとると、立ったまま夜景を眺め始めた。
香月はしきりに巽を見上げ、顔をどんどん寄せていく。しかし、巽は前を向いたままだ。
芹沢はたまらなくなり、エレベーターから少し離れ、香月達の方に背を向けたまま寄った。
「ねえ……キスしたい」
酔っているのか、舌ったらずの甘い声がまず聞こえた。
「こんなところで?」
「えー……、知らない人ばっかりじゃん。知ってる人、いた?」
「……いいや」
「じゃあいいじゃんキスくらいー」
「そんなにしたいなら、その次も見せつけてやるか?」
「それは、変態。私はただの乙女です」
「変わらんだろう?」