絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
BMWに乗り込むなり、香月は巽の首をとらえて、深い口付けを強引にした。もちろん巽は嫌がることもなく、すぐにワンピースから少し開いた背中を撫で、次に胸元を触り始める。
「んもう、今はキスだけ」
「難しい奴だな」
巽は笑顔を見せて、車のエンジンをかけた。
「今の男は?」
「今? ああ、さっきのタワーで挨拶した人?」
「ああ……」
「えっと、会社の女の上司の弟的存在の人なんだって。その、会社の上司に飲みに行こうって誘われて、で、その人もたまたま一緒になったの。この前一回だけだけどね。相手が気づかなかったら何も言わないつもりだったけど、気づいた感じだったから」
2人きりという話だと誤解を招きかねないので、巽に優しい情報にしておく。あまり意味はないかもしれないけど。
「職業は?」
車内はクーラーで涼しくなったが、まだハンドルをにぎろうとしない。
「出版社に勤めてるって言ってたよ。弟をパーティで見かけたことがあるんだって」
「出版社? どこの」
「えー、なんか忘れた。名刺もらったけどなあ……見てみようか」
「ああ」
「え、なんでそんな興味津々なの?」
香月はおかしそうに笑いながら、名刺入れから一枚の名刺を取り出した。
「あー、伊藤出版って書いてある。どこだろ。個人の出版会社?」
「おそらく架空の会社だろう」
巽はじっと前を見たまま、確信したように言った。
「……え、何で? あれかな。本当はフリーターなんだけど、きどったりして名刺渡してるとか?」
車内でタバコに火をつける時は、必ず窓を数センチ開けてからと決まっていたが、その時はなぜかそのまま火をつけ、更に、一口吸いこんだ。
「……さあ……」
「んもう、今はキスだけ」
「難しい奴だな」
巽は笑顔を見せて、車のエンジンをかけた。
「今の男は?」
「今? ああ、さっきのタワーで挨拶した人?」
「ああ……」
「えっと、会社の女の上司の弟的存在の人なんだって。その、会社の上司に飲みに行こうって誘われて、で、その人もたまたま一緒になったの。この前一回だけだけどね。相手が気づかなかったら何も言わないつもりだったけど、気づいた感じだったから」
2人きりという話だと誤解を招きかねないので、巽に優しい情報にしておく。あまり意味はないかもしれないけど。
「職業は?」
車内はクーラーで涼しくなったが、まだハンドルをにぎろうとしない。
「出版社に勤めてるって言ってたよ。弟をパーティで見かけたことがあるんだって」
「出版社? どこの」
「えー、なんか忘れた。名刺もらったけどなあ……見てみようか」
「ああ」
「え、なんでそんな興味津々なの?」
香月はおかしそうに笑いながら、名刺入れから一枚の名刺を取り出した。
「あー、伊藤出版って書いてある。どこだろ。個人の出版会社?」
「おそらく架空の会社だろう」
巽はじっと前を見たまま、確信したように言った。
「……え、何で? あれかな。本当はフリーターなんだけど、きどったりして名刺渡してるとか?」
車内でタバコに火をつける時は、必ず窓を数センチ開けてからと決まっていたが、その時はなぜかそのまま火をつけ、更に、一口吸いこんだ。
「……さあ……」