絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 ようやく、返事をしてくれる。
「名前はまさか、これだよね?」
 眉をしかめ、あまりにも真剣な表情になっているので、思いついて聞いてた。
「さあな……。たとえそれが全て架空であったとしても、お前には関係ないんだろ?」
 こちらの目をしっかり見て聞かれた。
「え、まあ……。今度も3人で食事行こうって言われたけど、それは会社の上司がいるから行くだけのことであって、私と2人きりで行くようなことはないよ」
 次はさすがにドタキャンしないだろう。
「……それならいいだろう」
「もしかして、嫉妬してるの?」
 香月は嬉しくなって、無邪気に笑った。
「ねねね?」
「……一目見て怪しい奴だと判断しただけだ」
 いつも巽は冗談に乗らない。だけどそれは、飽きれている証拠だが、今日はどうも様子が違う。
「ほんとー? そうかなあ。スーツ着てて、普通に見えたけど」
「服装に騙されてるようじゃどうしようもないな」
 顔を顰め、タバコを何度も吸う。会話はしているが、意識は違うことを考えているようだ。
「えー、そう? ……どこが変だった?」
「あの男はあそこで一人で何をしていたと思う?」
 巽は目を合せると、こちらをいつになく真剣に捉えた。
「え……あ、そういえば……え、まさかストーカー??」
「お前をか?」
「え、いやだって……じゃああなたの?」
「……」
 巽は無言になって、ハンドルを握った。どちらとも違うようだ。
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