絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「あぁ……彼は、ホテルとか。この近くだと、ディズニーランドの近くとか。後は海外にもあります」
「へえー……、いいなあ……。じゃあ将来は結婚とかするの?」
「どうでしょう。けど多分……しないかな」
 軽く、言っておいた方がいい。
「何で?」
 今井はグラスを傾けながら、片手間で聞いてきた。
「なくとなく」
 こちらも食事を続けるふりをする。
「そんな素敵な彼氏なら……今井さんなら結婚したいって絶対思いますよね?」
 珍しく紺野が話しを盛り上げた。
「何よぉ、私は別にお金目当てで結婚する気なんてないから!」
「じゃぁ何がよければいいと思いますか?」
 香月の素早い質問に、今井はすぐに答えた。
「性格」
「どんなです?」
「優しくて、頼りがいがある。それだけなのよ、私が望んでるのは!!」
「それが難しい」
 紺野のはっきりとした口調に、今井は笑った。
「奏ちゃんだってもう30だからね、そろそろ結婚も考えた方がいいよ」
「俺は別に……まずは仕事かな。仕事もできてないのに家族を養えるとは思わない」
「しっかりしてますね」
 香月の言葉に、紺野はこちらも見ずに、
「普通ですよ」
と、あっさり答える。
「そう、奏ちゃんはしっかりしすぎてるのよ。だから、こう……普通の女の子が合うわよね、きっと」
「普通……」
 残りの2人は声を合わせた。
「たとえば、香月さんとか普通でいいと思うけどなあ、私」
 顔のにやけが気になって、
「普通じゃないとはあんまり思ってませんけど」
 と、瞬時に冗談をうまく返せてよかった。
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