絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「さあ、もう一軒行こう!」
 今井のその声はとても明るくて元気が出るが、表情は酔っ払いそのものであることは間違いなかった。若干ふらつきかけた足元が頼りないのを心配して、紺野がバックを持っているが、それでもかなり香月によりかかってきている。
「今井さん、飲みすぎじゃないですか?」
「そんなことないわ、私、強いのよ。ね、奏ちゃん」
「ほんとですか?」
 香月は紺野に聞いた。
「まあ、強い方かな。今日もいつもと変わらないですよ」
「ね?」
 今井はとても得意気だ。
「二軒目、どこ行きます?」
「うーん、香月さん、どっかいいとこ知らない?」
「この辺でなら、私の知り合いがやってるお店があるんですけど、今日開いてるかな」
「じゃあいいじゃん、そこにしよう!!」
「えっと、ホストクラブっぽいところなんですけど、カウンターでは普通に飲めますから。そこでいいですか?」
「へー、そんなとこあるんだ。新しいの?」
「はい、わりと」
「じゃあ、そこそこー。あ、男の人も入れるの?」
「入れますよ。大丈夫です」
 夕貴の店に行ったことはある。ただし、一度だけで、その時は阿佐子のついでのように座っただけだが、確かにカウンターがあったし、カウンターにカップルが腰掛けていーた。味はどうだか知らない。だが、酒の味などボトルから出せばどこでも同じだろう。
 3人はタクシーに乗り、割り勘かと思いきや、紺野がタクシー代を全額払うと、今井を先頭に店に入った。
 店が開店していることと夕貴が出勤していることは、この時点ではもちろん確認していた。
 彼はカウンターで客の相手をしている、つまり普通に仕事中だった。
「こんばんは、久しぶり」
「いらっしゃい」
 夕貴は完全営業モードでこちらに笑顔を向けた。
 今井を彼に一番近い場所に座らせ、その左に香月、最後に紺野が腰掛ける。それぞれは飲み物を注文し、口をつけはじめた。
「香月さんとはどういうお知り合いなんですか?」
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