絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「若くないし……。なんで私? 私は阿佐子のお兄さんを知らないわけじゃないけど、全然親しくないし……」
「向こうが知ってたんだよ。どこでどう会ったのかは知らないが」
「……お店かなあ?」
「さあな。そこで、まあ、突然お兄様が行くよりは、俺でワンクッション置いた方が確実だと言われて。俺もあの男に会ったのが今日が初めてだ。本当は3人で会えればなあという相手の想いもあったが、とりあえず今日は2人にした」
「それ、正解」
 榊はコーヒーを一口飲んだ。香月にはまだ熱いくらいの温度なので、とりあえず冷ましている。
「突然3人で会ったって……しかも、私は相手が役員でも何でも何も思わないし、縁談とか言われても結婚する気もないし。結婚前提の付き合いもできないし、友達になろうとも思わないし。ワンクッション挟んでも挟まなくても答えは一緒だよ」
「……今、誰か付きあっている人が?」
「いるよ」
 間髪あけずに答えたのは、相手が榊だから。
「いる。その人との結婚を考えてるからとかそういうわけじゃないけど、今はとりあえず、ダメ、無理」
「分かった、じゃあ連絡しておく」
 榊はある程度は予感していただろう。あっさり引いて、小さくため息をついた。
「私が連絡しようか? その方がいいでしょ」
「……まあ、言えるか?」
「言えるよ(笑)。私はそんな遠慮しなきゃいけない相手でもないし」
「ならとりあえず、電話番号を教える。で、お兄様にも愛自身から連絡がいくように伝えておくから」
「うんそうだね」
 2人は携帯電話を出して、赤外線で情報を行き来させた。
 そして、ようやく香月はコーヒーを一口飲み、話を始めた。
「久司はもう結婚しないの?」
 軽く、軽く聞く。
「だろうな……それほどの相手じゃないと」
「理想高そうよね」
「否定はしない」
「すごい、そんな人、初めて見た(笑)。大体理想高そうとか言われると、そうでもないよって答えない?」
「そうか?」
 あぁ、こういうところを当然としているところが、榊だなあと思う。
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