絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「うん。……今付き合ってる人はいるの?」
 私だって、今巽と付き合っている。
「ああ」
「その人と結婚はしないの?」
 沈黙になるのが怖くて、次々質問をぶつけた。
「しないな」
「え、それってさ、その理想には追いついてないからってこと?」
「まあそうかな」
「え゛――。じゃあ何で付き合ってるの?」
「何でって、付き合いたいって言われたから」
 真顔で言い切るところが、まったくもって、榊らしい。
「わー……、らしいね、久司らしい!」
「何が」
 榊は笑いながら、残りのコーヒーをゆっくり飲み干していく。
「うんだって、去るもの追わず、来る者拒まずっぽい」
「理想高そうって今言ったばかりじゃないか(笑)。一貫して言えるのは、誰でもいいわけじゃない」
「信憑性にかけるねえ、その言葉」
 笑ってみせたが、実はその言葉が何よりも榊らしいということを、わが身をもって知っている香月は、少し視線を落とした。
 そうやって、付き合いたいと言ってきた女の子とは簡単に付き合うのに、私ではどうしてダメだったのだろう。
「俺は本当は理想が高い。誰よりも美しくないと嫌だし、誰よりもまっすぐでないと嫌だな」
「……面食い?」
「まあ、ある意味そうかもしれない」
「例えば、芸能人で言うと誰? どんな顔の人?」
「美しいと思う芸能人なんかに会ったことない。
 俺は……」
 榊は一度言葉を止めてから続けた。
「俺は愛のように外見が美しくて、中身が真っ直ぐな女性がいいんだろうな、多分」
 最後に疑問符がついていることがすぐ引っかかる。
 だが、余計な言葉は何も言いたくなかった。
「それでも私がロンドンまで追っかけたら嫌だって言ったじゃない」
 軽く言ったつもりだったが、その言葉はただの本心でしかなく、笑ったつもりだったが、その表情は完全に崩れていた。
「理想と現実を知ってるから。
 俺は愛を幸せにはしてやれない」
「……納得いかないわ」
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