絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 だが、同居している真籐には話しても、上司である香西には黙っていた。なぜならもちろん、春の便は流せと指示を受けていたからである。
 一応本社には連絡をしている。だから、合格したら、合格者名簿に名前は載る。
 そこで香西を驚かせるのも面白いと思っていた。
 しかし、そこまで待てなかった。
 結果はまずインターネットで午前11時に公開される。
 こっそり店舗パソコンで受験番号を見ていた者が数名いた。まあ、今日限りは無効。
 皆静かにはしゃぎ、その日出社の香西および、副店長に報告。
 果たして香月は……、合格していた。
 香西にいち早く知らせたかったが、言いそびれてすぐに夕方になってしまう。
 そしてようやく手があいている香西をパーツコーナーで探し出し、にこやかに寄っていった。
「聞いてください、香西店長」
「何?」
 香西は数秒待って、コードを数え終えるとこちらを向いた。
「家電の試験、合格しました」
「え!? 受けたのか!?」
「はい(笑)」
「えー、もーなんで言わないんだよ(笑)」
「だって、春は流せって言ったから……落ちたら言いにくいなと思ってて」
「そんなのどうでもいいのに(笑)。良かったなあ、おめでとう。結構勉強した?」
「はい、真籐さんとみっちり」
「ああそうか、それは良かったな」
「はい(笑)、良かった(笑)、香西店長のおかげです。あの日から、目標が見つかって……」
「ああ、そうだったな……。それにしても頑張ったなあ、偉い!」
「へへ(笑)」
 次の日、全店にメールが流れた。家電試験合格者名簿にもちろん堂々と名前が載り、驚いた皆からメールや電話がきた。
『香月さん、名簿拝見しました。おめでとうござします。これからもこの試験を踏み台にして、日々精進していってください』
と、いつもながら返答の文面に迷う永作からのメールも、嬉しくて笑えた。
 佐伯は、飲みに行きましょうよ♪と嬉しそうに電話してくる。西野も同じだった。
 吉原も『おめでとうございます。今度皆で食事にでも行って、お祝いしたいです』とちゃんとメールしてくれたし。
 もちろん宮下からも、約2ヶ月ぶりにメールがきた。
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