絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
『  おめでとう。
  合格者リストを見て驚きました。頑張ったんですね。これからも、フリーに、時計に、販売に頑張ってください              』
 嬉しくて、泣けた。もちろんリプライに一番時間をかけたのはこのメールである。
『  ありがとうございます!
  香西店長と話しをして、家電試験という目標を見つけました。香西店長は秋に受ければいいとアドバイスしてくださいましたが、それを破って内緒で春に受けました(笑)。真籐さんがフォローしてくれたので、負担が少なかったんだと思います。
  受けて合格して、本当に良かったなあと思いました。
  時計も結局はあの合格以来触ってもいないけど、多分きっと頑張ってよかったと思える日がくると思います。                  』
 宮下からのリプライはここで途切れた。
 何度か受信を問い合わせたが、なかった。
 ああ、そういえば最初もそうであった。メールがしたい、電話がしたいと思ったが、それをどうすればよいか分からず、相談したら、好きだから付き合おうと言われた。
 あれからだいぶ長い時間がすぎた。
 色々なことがあった。
 だが今自分は仕事に精を出せる環境で、日々精進しつつある。
 その一つ、家電試験でスキルアップ。
 その効果あって、知識を一人前につけたからにはトランシーバーでのもっと中身のある会話ができたり、また、伝票処理の時間が早まると思っていた。
 あの、店内の空間で恐れもせず、堂々と立っていらせる。そんな気がしていた。
 内示はなかった。何故か、知らないけど。
 突然だった。5月8日からの人事異動で。香月は本社営業部に勤務することが確定になっていた。
 一番に思い浮かんだのは、あの大きなビル。次に宮下であった。
 香西は言う、スキルアップの頑張りが認められた結果の昇進だったのだと。本社が希望する人材であったのだ、と。
 素直に笑えず、不安な顔だけが露骨に出た。
「ずっと本社ってわけじゃないんだし。まあ、半年くらいはいなきゃならんかなあ。けど、嫌だったら移動願い出してもいいんだし」
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