絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 それ以上の言葉も必要ない。西野は、小ぶりな毛布を抱えるとロビーを出て駐車場に歩き始めた。いつもの友達なら車まで一緒に行くところだが、今日はさすがにそんな気分になれなかった。エントランスでロビーの時計を確認した。午前零時15分前。巽と別れてから45分も経っていた。
 躊躇いもせず携帯を鳴らしたが、5回目のコールの後留守電に切り替わり、思い出した。そうか、仕事があるって言ってたっけ。
 メッセージも入れず、諦めて自宅へ戻る。自分も明日仕事がある。このままシャワーを浴びてすぐ寝た方がいい。おそらく西野とはもうしばらく会わないだろう。彼には申し訳ないが、自分にできることはこれ以上ない。
だが、そう思い切ると、すっとした。今まで最上からとやかく言われて、心に留まっていたものが全てなくなった気がした。
 なのにどうだろう。さあ寝ようとベッドに入ったときだった。いや、もう半分以上意識を失っていたはず。暗闇の中携帯電話が鳴り、寝る前に巽の声を聞くのも乙だと喜んで表示を見ると、思いもよらない「最上」の文字が走った。こんな深夜にどうしたんだろう。
 まさかこっちも離婚か?
「はい」
『もしもし先輩!? 今どこですか!?』
「今? 家だけど」
『家!? 東京マンション!?』
「え、うん、そう。何?」
 激しく慌てている最上に、あえて冷静に放った。
『ちょ……今西野さんが事故に遭ったって聞いて、そういえば先輩のところに行くって聞いてたからもしかして2人ともなんじゃないかって』
「え、事故!?」
 まさか自殺ではないのか!? という不安がよぎる。
『あ、キャッチ! すみません、ちょっと待って下さい!』
 とりあえず部屋の電気をつけ、すぐに着られるようにタンスから服を数枚引っ張り出した。
『もしもし、あの、西野さん桜美院に運ばれたそうです。私、今から行きます!』
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