絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「大丈夫なの!?」
『詳しいことは分かりませんけど、多分』
「いや、こんな夜中に最上、家出られるの?」
『ああ、旦那がいますし、朝には帰って来ますから』
「あそう、うん、私も行く。桜美院だね」
『はい、多分どっかで聞けば分かると思います』
 それは多分病室の部屋番号ことである。
「うん分かった。急ぐ」
 その電話を切って、服に着替えた途端、また携帯が鳴った。今度は巽からだった。
「もしもしごめん、あの、電話かけててなんなんだけど私、今ちょっと急いでて。病院行かなきゃなの」
『病院?』
 こんなに人が急いでいたってペースを崩さないのが巽である。
「うんそう、友達が事故して病院に運ばれたの! だから……」
『送ろう』
「え、何?」
『今東京マンションの近くまで来ている』
「えー、嘘!? 会いに来てくれたの!?」
『どうかな』
 そんな余裕を聞いている場合ではない。
「えーえー、こんなときに病院なんか……信じられない! けどじゃあ乗せてって。ありがとう、本当助かる」
 先に礼を言うと、すぐに電話を切り、服を羽織って飛ぶようにエレベーターで降りた。
 エントランスにはロビーから見ても分かる高級車がすでに停車していた。慌てて駆け寄り、いつもの右助手席に乗り込む。
「ありがとう、本当助かる」
「それで、友人というのは?」
「あ、さっき……ここに送ってくれた時、見えなかったよね? 西野さんが来てたんだけど……さっき会ったとこなのに、どうしちゃったのかしら」
 香月は巽から目を逸らした。
「何故西野が東京マンションに?」
「……離婚したってことの報告みたいな感じかな」
「その後に事故?」
「今友達から電話がかかってきて、私もよく分からないけど、とりあえず桜美院に運ばれたって言うから……」
「……」
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