絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 巽はそれ以上何も言わないので、香月も黙っていた。
 車で20分ほど走って着いた病院は深夜のわりにとても明るく、眠らない救急病棟というフレーズを思い出させた。
巽とはここまでで、先に降りて中に入ろうと思ったが、同じように運転席から出たので驚いた。
「俺も一度会ってるからな。時間がゆるす限りは付き合おう」
2人は並んで深夜受付の前に立ち、西野と名前を告げると、すぐに手術室に運ばれていることが分かった。巽は手術中にも関わらず、香月つの後ろについている。今日は暇なのだろう、と香月は思った。
「香月先輩!!」
 先ほど教えられた廊下を曲がったところで、先に目に入ったのは最上。
「最上!! ……どんな感じなの?」
 と、聞いているのは香月なのに、最上の視線は巽から離れない。
「ちょっと」
 最上がこちらを見ずに後ろを振り返った。そこに人がいることは分かっていたが、一瞬だけだったのでよくよく見て驚いた。
「ちょっと、すんごい美人なんだけど」
 男だろう。おそらく。洋服は明らかに女性物のピンクの薄手のカットソーに派手な赤のスカーフを巻き、黒のタイトスカートに網タイツにハイヒールで、容姿もなんとなく女に近づいてはいるが、体格が明らかに男である。その人間はまずこちらの外見の評価をした。
「えっと、この人が第一発見者の人なんです。バーのオーナーで、西野さんと私も知り合いの……」
「サクラです! どうもはじめましてー♪」
 場違いなほどに賑やかな赤い唇の笑顔を振りまいてくる相手に、香月はその手の人種にはどう対処してよいか分からず、明らかに困った態度を見せた。
「私こんなすんごいカップル見たの初めてなんだけど。なんで早くお店につれて来てくんなかったのよぉ」
「いや、ちょっとなかなか時間合わなくて……ってそんな話しじゃなくて」
「えー?」
サクラは不満な声を漏らしたが、それに反して最上は真剣な表情で問うた。
「西野さん、落ち込んでたんだよね?」
「そうね……」
 なんとなく沈黙が起きてしまう。
「とりあえず、座ります?」
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