絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「います。それが、その分析作業の指揮をとっている城嶋さんです」
「……全然知らない……」
 まさか、聞いたこともない名前が出ると思っていなかった香月は、床に視線を落とした。
「城嶋さんはよく視察に行ってますからね」
「えー、そうなんだあ……嫌だなあ。私が知らないのに知られてるってところが……。あの、それから家電の試験を受けたことと、この移動って関係あるんですか?」
「いえ、全く関係なかったと思いますよ、城嶋さんがそのことを知ったのは移動が決まってからですから」
「えー……何がよかったんだろうな……」
「雰囲気が良かったんだと思いますね。普通に仕事をしてるかどうかは見ればすぐに分かりますから」
「えー……もー……やだなあ」
 他に、出張で忙しい田中の代わりに、ほぼ営業部長の座にいるといっていい宮下営業部長代理と、真中経務部長夫人の真中営業部第一課長、エリート集団の中の一人の派手なイケメンで有名な小笠原由紀人主任、同じような太政真次副主任、そして香月の世話役として当てられている成瀬が主な人物らしい。
 特に成瀬は年齢も同じで気軽に相談ができるだろうと、当てられたらしい。
「……やっぱり営業部は忙しいんですか?」
「そうですね……人事に比べれば(笑)。暇月こそ夜遅くまで残っているのも大抵ここですね。それに、第一は真面目な人が多いので……というか、部長に負けてかな、残業も平気みたいですね」
「え―…………」
「けどまあ、仕事の途中で誰かに呼ばれてその仕事を忘れたりすることもないし、昼休みと休み時間はちゃんとありますから」
 真籐の笑顔はいつも通り、眩しい。
「……明日のお昼は一緒にランチしてください」
 香月は溜息混じりで言った。
「(笑)、どこがいいですか? 和食? イタリアン?」
「……美味しいパスタが食べたいです。ケーキ付で」


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