絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
最上に促されて、最上、サクラ、香月、巽の順に手術室の大扉の側の長椅子に腰掛けた。
目の前には大きく閉ざされたドアがあり、その上に手術中のライトが灯った表示板がかけられている。テレビでよく見る光景に、最悪の事態を想定してしまい、溜息が漏れた。
全く場違いなイクコは、場違いにも少し微笑みながら続けた。
「最近ね……」
意外にも、サクラが一番先に喋りはじめた。赤い唇が忙しく動くのを隣で見た香月は、その化粧はかなりの厚塗りだが、大きな二重に堀の深い顔はおそらく化粧を落とせば二枚目なのではないかと無駄に予想した。
「せいちゃんははよく店に来てくれてたんだけど、もう見てらんなかったわ。離婚、子供、離婚、子供ってもうそればっかり」
「せいちゃん」という呼び名を聞いたことがなかった香月は一瞬誰のことだったか、と考えてしまう。
「私にも同じでしたよ」
最上は身体を大きく曲げ、こちらに視線を合わせてくる。
香月は、小さく溜息をついてから、ようやく口を開いた。
「さっき私、会ったんです。西野さんと」
サクラに話しかけるつもりで敬語で話しをはじめた。
「……そうだったのね」
サクラの中では何かがつながったようだったが、最上と巽に説明するつもりで続けた。
「西野さんに……」
左隣では巽静かに息をしている。組んだ足は長く、スラックスもきちんとブレスされている。
「何ですか?」
最上がせかす。
香月は、ようやく、現実を見るように手術灯を見つめながら放った。
「結婚してほしいって言われた」
「……」
それぞれの溜息が聞こえ、それをかき消すように、早口で続ける。
「離婚したから、子供を24時間の保育園に預けるのはまるで施設に入れてるみたいで可哀想だからって。でも私のことを前から好きだったとも言った。けど、そういわれたからって私の心が何か、変わるわけではないけど」
「本当ですよ」
最上が自信を込めて言った。
「本当に昔から好きでした。西野さん。自分でそう言ってました。けど、先輩が振り向いてくれないから……俺は陽太のために生きるって。だからあの奥さんのことは最初から何とも思ってなかったんです」
「まあ……そういう結婚はどうかとずっと思っていたけれどね……やっぱり、皆が心配した通り離婚ってなったし」
サクラは第三者の意見を的確に表現し、最上も更に続けた。
目の前には大きく閉ざされたドアがあり、その上に手術中のライトが灯った表示板がかけられている。テレビでよく見る光景に、最悪の事態を想定してしまい、溜息が漏れた。
全く場違いなイクコは、場違いにも少し微笑みながら続けた。
「最近ね……」
意外にも、サクラが一番先に喋りはじめた。赤い唇が忙しく動くのを隣で見た香月は、その化粧はかなりの厚塗りだが、大きな二重に堀の深い顔はおそらく化粧を落とせば二枚目なのではないかと無駄に予想した。
「せいちゃんははよく店に来てくれてたんだけど、もう見てらんなかったわ。離婚、子供、離婚、子供ってもうそればっかり」
「せいちゃん」という呼び名を聞いたことがなかった香月は一瞬誰のことだったか、と考えてしまう。
「私にも同じでしたよ」
最上は身体を大きく曲げ、こちらに視線を合わせてくる。
香月は、小さく溜息をついてから、ようやく口を開いた。
「さっき私、会ったんです。西野さんと」
サクラに話しかけるつもりで敬語で話しをはじめた。
「……そうだったのね」
サクラの中では何かがつながったようだったが、最上と巽に説明するつもりで続けた。
「西野さんに……」
左隣では巽静かに息をしている。組んだ足は長く、スラックスもきちんとブレスされている。
「何ですか?」
最上がせかす。
香月は、ようやく、現実を見るように手術灯を見つめながら放った。
「結婚してほしいって言われた」
「……」
それぞれの溜息が聞こえ、それをかき消すように、早口で続ける。
「離婚したから、子供を24時間の保育園に預けるのはまるで施設に入れてるみたいで可哀想だからって。でも私のことを前から好きだったとも言った。けど、そういわれたからって私の心が何か、変わるわけではないけど」
「本当ですよ」
最上が自信を込めて言った。
「本当に昔から好きでした。西野さん。自分でそう言ってました。けど、先輩が振り向いてくれないから……俺は陽太のために生きるって。だからあの奥さんのことは最初から何とも思ってなかったんです」
「まあ……そういう結婚はどうかとずっと思っていたけれどね……やっぱり、皆が心配した通り離婚ってなったし」
サクラは第三者の意見を的確に表現し、最上も更に続けた。