絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「けど西野さん、離婚したことでふっきれたんだと思いました。今まで先輩には絶対心の内を言わないって言ってたのに、ついに言ったんですよ?」
「けどそんなこと言われたって……よね? 香月さん」
 サクラの微笑みは優しかったが、やはり化粧が不自然なことが気になって、なかなかセリフを見つけられなかった。
「…………。私は……西野さんのことをそんな風に考えたこともなかったし、好きだからと言われて好きになれるような、そういう……、なんというか……」
「タイプじゃない?」
 サクラに流されたフリをして、頷き、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「けど、事故なんですよね?」
 言った後でしまった! と思った。それでは自殺を疑っているようである。
「……多分、香月さんに会った後ね。うちの店に来たのよ。けど10分……くらいかしら。とにかく水を飲んでるのかと思うほどガブガブ飲んでね。すぐ出てったの。そうしたら、車のすんごいブレーキ音がして、慌てて出てったら、ずっと先で車が斜めに止まってるの。それで走って……車の少し前よ、あの子が倒れてたの」
「引いた人は?」
 最上が聞く。
「警察と現場検証してるんじゃないかしら。まあそんなとこよ……」
 隣の巽が気になって仕方なかったが、確認する勇気もなく、ただ、口を噤んで白い廊下のタイルを眺めた。
「え、あの……子供さんは?」
 ふっと頭をよぎり、口にする。
「子供? 誰の?」
 サクラが、自称可愛いと思っているのであろう、完璧な驚きポーズで目を見開いた。
「あの、西野さんの。私といる時は一緒でしたけど」
 意味もなく辺りを見回した。その辺で遊んでいるはずはないのに。
「え、家に置いて来たのかしら……ん? 今何時? えっと、香月さんと別れたのはいつ?」
「えっと、12時……いや、11時45分です」
 時計を見たことを思い出す。
「え……じゃあ、うちに来るほんとすぐ前じゃない! え!? どこ!?」
「まさか、車に置きっぱなしなんじゃないの!?」
 最上も言いながら慌て立ち上がった。
「うそお! ちょっと私、見てくるわ!」
 サクラは我先にと、それでも女性を意識しながらすごい勢いで廊下を走って行く。その行動力に関心した3人は、とりあえず今の状態を維持することにした。
「……西野さんの家族に連絡は?」
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