絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 意外にも最上が最初に口をきいた。
「ああ、総会でしょ? 来てたから」
「えー、そうだったかなあ……、なんかちょっと違う気もする……」
「ここのお医者さんだよ」
「そんなの分かってますよ! 白衣着てたんだから」
「あそう?」
 香月は髪を払いながら軽く笑った。
「それにしても先輩、髪、切ったんですね」
 ずっと気にしていたんだろう、特に最初、視線を感じたが場の雰囲気で言い出せなかったようだった。
「私、ちょっとオシャレに目覚めようと思って。まずは髪型から」
「あの、それで。隣の方って彼氏さんですよね?」
「あぁ」
 本題はどうやらそっちだったようだ。
「うん、今日はたまたま……」
「どうして美人の周りには美人が集まるのかしらね……」
 その声に、ようやく存在に気付いて振り向く。
「あ! 陽太君、ほんとにいたんだ!!」
 そこにはあの毛布を抱えた男ではなく、サクラが立ち凄んでいた。
「いやんもー、汗びっしょりよ。どんだけ走ったと思ってんの? っとに……」
 確かにこの寒い時期に額から汗を流し、驚くほど目元の化粧がはげ落ちている。
「夜の車の中に置き去りにされたら大人だって怖いわよ! けど、私の店に来る前から車でにいたみたいね」
「車の中にいたの?」
「寝てたけどね。まあ、寝ててくれてよかったわ」
 サクラは元の場所に一旦腰掛けて、陽太を抱きなおした。
「でさあ、携帯見つけたから一応、自宅に電話かけて話しておいた。でも、ここからあの子んち遠いからしばらくかかるって。で、さっきのいい男は誰なの?」
 サクラは香月を食い入るように見つめた。
「さ……っきのは、外科の榊先生です」
「知り合い?」
「友人の主治医で……」
「友人の主治医!? 友人ってまさか、すんごい金持ちのじいさん!?」
「何で?」
 最上が聞いた。
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