絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「今時主治医がいる人なんてじーさんくらいなんじゃない!?」
「いえあの、普通の若い人です」
「へえええー、すごいわねえ」
「それにしても良かったですね。あ、西野さんも今縫ってるところらしいし、意識も多分もうすぐしたら戻るだろうって」
「はあ……、まあ、とりあえずは良かったわね」
 一同で、すやすや眠っている陽太の白い顔を見つめた。父親は誰だか分からず、母親にも逃げられ、拾われた父親も事故に遭ってしまった陽太。
 香月は思った。
 そんな不幸な子供でも、自分が面倒を見なければいけない理由はどこにもない。
 やっぱり、自分には、自分の人生が、自分だけの人生が絶対にある。
「でも私、西野さんの想いに応えられなかったことは、やっぱり後悔していません」
 何の脈略もなかったが、陽太の顔を見て、やはりもう一度確認しておこうと思った。
「けど私は、先輩は彼氏がいなくなると西野さんを頼るような、そんなところがいつもあったと思います。だから、西野さん、ずっと好きだったんですよ」
 最上の口調は軽かったが、内容があまりにも理不尽なせいで、つい答えがきつくなってしまった。
「私は別に、何も……それに大体私が振り向いてくれないと分かってるから結婚したって自分で言ってたし。それが今更好きだったから結婚しようって言われても、普通、無理でしょ」
「けど、最初から先輩に相談して、施設預ける時とか、かなり頼られてたじゃないですか。そしたら好かれてるとか思いませんか? なんというか、あんまり世話してあげても逆に可愛そうかなあとか」
 冷徹に答えた。
「知らないよ、そんなの」
 冷たい間が空いた。
「ちょっとそれってひどすぎませんか!?」
 最上の高い声が静かな廊下に響き、立ち上がってこちらを見ているのが分かっていたが、香月は自分が悪いとは微塵も感じず、まっすぐ前の廊下のタイルを見つめた。
「私は相談に乗ってほしいってゆーから乗っただけで。しかも重要な内容だったし……だから……」
「けど私が何度も言ったじゃないですか! 西野さんは先輩のことが好きなんだって」
「だからってどうしたらいいの? 
私が今の彼氏と別れて西野さんと結婚すればいいわけ? そんなんで、一体誰が救われるの!?」
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