絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 西野のバタバタがあったせいかおかげか、結局巽との仲は今まで通り維持している。
 ある晴れた午後、昨晩巽邸に泊まりに来たはいいが、酔って眠ってしまった香月は、いつもより早く目が覚め、「街を歩きたい」とねだったのだった。
 柔らかな日差しを受けて、2人はゆっくりと歩く。遅めに朝食をとったせいでランチはまだ必要なかったし、買いたい物も何もなかったが、とりあえずただ大通りを歩いていたかった。
 こんな陽気な日、2人で歩いて西野親子と会ったことを思い出す。あれから西野は離婚して、事故に遭い、3か月経った今も全身に痺れが残り、まだリハビリが必要で、職場に復帰していない。最上と見舞いに行っても、もうその話しは出なかったが、まだ再婚のことなど考えているのだろうか。
「私が自分の気持ちを捨てて、西野さんと結婚するっていう選択肢もあったんだろうか」
 独り言のように呟いたとき、巽はこう答えた。
「そんな選択肢など初めからない」
 最上やイクコの意見同様、巽の意見も確かに正しかった。皆それぞれ答えは出した。それでかみ合わなかったのだ。それで誰一人幸せになれなかったのだから仕方ない。
 見上げた空はあまりにもまぶしい。
「お前がいなくちゃできないことが山ほどあるんだ」
 感傷的になったせいで、夕貴が発し、感銘を受けた言葉が頭を舞う。
 いつかその言葉を、巽が自分に言い聞かせてくれることなど、あるのだろうか。
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