絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
現場の営業事務と本社の営業部の大きな違いを一つあげるとすれば、それは「プライド」だと思う。現場の、にこやかで、忙しく走り回る雰囲気は、この営業部フロアには全くない。皆、ただパソコンの前に向かって、一人ひとりが作業を続け、時々周りと会話し、一日が過ぎてゆく。
一箇所に固定されるのは苦しいだろうと、ずっと思っていた。例えば、レジカウンターから出ると違反だとか、その、半径5メートルが持ち場だとか。
それがどうだ。今やこの椅子一つ。確かに時々立てってトイレに行ったり、好きな時間にお茶を飲んだりできる。しかしそれが何だ……。なんだこの窮屈さは!
「香月さん、進んでる?」
今日も隣の成瀬はちゃんとこちらの進み具合を気にしてくれる。
「はい、だいぶ」
嘘ではない。パソコンに向かって作業をするのは嫌いではないので、スピードは遅くない。
「うんうん、で、終わったらこれ全部打ち込んでくれてるデータ送信してるからそれ見て、これとかけあわせて、それで順位つけて、それをまた送信してくれるかな」
「あ、はい……」
言われたことはちゃんとメモしておく。
「いつくらいにできるかなあ……?、明日休みだから城嶋さん的には今日中に僕のデータが欲しいと思ってるはずだけど」
「……今3時ですよね。えーと……」
「とりあえずやろう。ごめんねいきなり忙しくて。大変でしょう?」
「いえ……」
「けど香月さん仕事早いから助かるよ、今日も思ってた以上に早く帰れそうだし」
「ほんとですか!?」
「うん、今日中には帰れないかもと思って来たけど、今日には帰れそう」
「…………」
成瀬は優しい。若いのに、仕事も多分できるんだろうし、文句も愚痴も言わない。柔らかそうなウエーブされた髪の毛は天然なのかとても軽そうで、まるで天使の巻き毛を思い出させる。そう、それは肌の色が白くピンク色なせいもある。本人は「女の子みたいって言われるからすごく嫌だけど、ストレートパーマかけたってうまくいかないんだ」ということだったが、体なんか自然の方が素敵に決まっているのだ。
彼はまず初日から、
「僕が香月さんのコーチャーってことになってるから、何でも聞いてね。逆に、聞かないでそのままにしてると僕が怒られるから、聞いてもらった方がありがたいんだ」
と笑いながら挨拶してくれて、さっそくその夜2人で食事に行った。その食事の効果は絶大だったと思う。2人はすぐに冗談を言い合えるくらいの仲に成長していた。
「僕は城嶋さんと組んでもう3年になるけど、ほんと、いい人なんだ。ほんと分かりにくいけど(笑)」
一箇所に固定されるのは苦しいだろうと、ずっと思っていた。例えば、レジカウンターから出ると違反だとか、その、半径5メートルが持ち場だとか。
それがどうだ。今やこの椅子一つ。確かに時々立てってトイレに行ったり、好きな時間にお茶を飲んだりできる。しかしそれが何だ……。なんだこの窮屈さは!
「香月さん、進んでる?」
今日も隣の成瀬はちゃんとこちらの進み具合を気にしてくれる。
「はい、だいぶ」
嘘ではない。パソコンに向かって作業をするのは嫌いではないので、スピードは遅くない。
「うんうん、で、終わったらこれ全部打ち込んでくれてるデータ送信してるからそれ見て、これとかけあわせて、それで順位つけて、それをまた送信してくれるかな」
「あ、はい……」
言われたことはちゃんとメモしておく。
「いつくらいにできるかなあ……?、明日休みだから城嶋さん的には今日中に僕のデータが欲しいと思ってるはずだけど」
「……今3時ですよね。えーと……」
「とりあえずやろう。ごめんねいきなり忙しくて。大変でしょう?」
「いえ……」
「けど香月さん仕事早いから助かるよ、今日も思ってた以上に早く帰れそうだし」
「ほんとですか!?」
「うん、今日中には帰れないかもと思って来たけど、今日には帰れそう」
「…………」
成瀬は優しい。若いのに、仕事も多分できるんだろうし、文句も愚痴も言わない。柔らかそうなウエーブされた髪の毛は天然なのかとても軽そうで、まるで天使の巻き毛を思い出させる。そう、それは肌の色が白くピンク色なせいもある。本人は「女の子みたいって言われるからすごく嫌だけど、ストレートパーマかけたってうまくいかないんだ」ということだったが、体なんか自然の方が素敵に決まっているのだ。
彼はまず初日から、
「僕が香月さんのコーチャーってことになってるから、何でも聞いてね。逆に、聞かないでそのままにしてると僕が怒られるから、聞いてもらった方がありがたいんだ」
と笑いながら挨拶してくれて、さっそくその夜2人で食事に行った。その食事の効果は絶大だったと思う。2人はすぐに冗談を言い合えるくらいの仲に成長していた。
「僕は城嶋さんと組んでもう3年になるけど、ほんと、いい人なんだ。ほんと分かりにくいけど(笑)」