絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 城嶋が愛想の良い人には最初から見えなかった、それはメタルフレームのメガネのせいかもしれない。メガネの奥の切れ長の目は鋭く、パソコンを見る目つきはいつも冷たい。ダークスーツを好み、ネクタイも派手な物をしないが、逆にそのオーラは燃えるようで、なかなか話しかけづらい。
 挨拶も、
「よろしく」
 の一言だったし、一日一言すら話しをする人は少ないという。
「それからね、真中夫人は……ここだけの話なんだけど、宮下代理にフられて真中部長とやけくそで結婚したって噂なんだよねー、あ、噂だからね、僕も本当のことなんか全然知らないけど」
 成瀬の真中夫人に対する印象は、はっきり言ってこの一言しか覚えていない。他に仕事に対する色々を話してくれたが、全て忘れた。
 真中夫人は、黒淵のセルフレームのメガネをかけたよくある女教師の風貌によく似ていた。香月の第一印象は、戸惑うことなく「女教師」であった。
 かっちりと着こなされたモノトーンのスーツは良い物だと一目で分かるが、少し派手で、明るい髪の毛と口紅の色と合わせると社内でもとても目立つ存在であった。
「でも、モテそうですよね、なんかできる女って感じで」
 成瀬が既に違う話をしていたが、頭はそこから動かない。
「うーん、そんな話、あんまり聞かないけど……僕もあんまりタイプじゃないし(笑)」
「じゃあ成瀬さんはどんな人がタイプなんですか?」
 まあ、そういう話題にもっていくのが普通だろう。
「うーん……普通の人。真中さんはある意味普通じゃない。派手だからね。ああいう……なんか口紅赤いのはちょっと」
「(笑)、年齢差とかは平気なんですか?」
「ああ、それはもう派手とか以前の問題だよね、おばさんはちょっと(笑)」
「ひどーい(笑)」
「だって10……は上だよ。年いくつか知らないけど」
「あー……多分。それくらいには見えますよね」
 そこで、宮下関連の話をもう少し聞きたいという心もあったし、そういう話題にもっていけなくもなかったが、もし、自分達の過去のことがバレたとき、必ず気まずくなるのでその話題はもう避けた。
 今更、どうこうなる話でもない。
「それからね、二大エリートの太政さんと小笠原さんはもう知ってのとおりだよ」
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