絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
そのシステムを導入し、今後の業績結果を予測、分析し、改善するのがこの城嶋チームの仕事であった。資料は膨大で、3人でする仕事とはとても思えない。 これならどこかからもう10人くらい引き抜いてきて皆で仕事を分けた方が仕事の効率も上がる気がした。
だが、もちろんそんなこと、誰にも言わない。
自分にできることは、ただ残業して、目の前の資料の内容をパソコンに入力し、成瀬に送信するだけ。
残業は一日に2時間から4時間。つまり、9時出社すると、退社が10時になることもある。今までの生活に比べ、昼からの途中出社がない今はかなりハードであった。
残念なことに、会社は夜間警備員が常駐して、鍵を閉めてくれるので、出て行ってくださいという期限がない。また、家に仕事を持ち帰ってももちろん構わないのだが、情報漏えいになると怖いし、また、家に持って帰ってするくらいなら、このまま集中力を持続して残業した方が早いと考え、毎日この様なのである。
営業部から出るのは、大抵香月が一番最後だった。仕方ない。一番の新人だから、文句は言えない。
期日が厳しく、それまでにできないと成瀬が城嶋に叱られることになる。一番最初の仕事の時、それに失敗して、大きく反省した。それからというもの、残業も、成瀬が叱られることを思えばまだ楽だと思えるのである。
その日、10時を過ぎてなお、作業が終わらない香月は、珍しく城嶋と2人でデスクに明かりを灯し、残業をしていた。
城嶋は終始無口で、さっきとりあえず「お茶かコーヒー淹れましょうか?」と聞いて、ご注文の「コーヒー」をデスクに置いただけである。
外を眺めると、見事な夜景が広がっており、なんとなく巽を思い出した。
こんなむしゃくしゃした日にこそ、「今何してるの?」というどうでもよい電話をしたくなるものである。
休憩のつもりで、バックに入っていた携帯電話を取り出し、巽の番号を探した。
あのディズニーランドのホテルの帰り、
「プライベートの携帯番号、教えて下さいね。用があったらかけますから」
と、彼の携帯を勝手に取り、勝手に赤外線で情報を交換したが、巽はそれをただ見ていた。それだけ、信用されているのだろうか?
「仕事、慣れた?」
突然正面から声をかけられて、驚き、慌てて画面を元に戻した。
「え、あ、はい……最初に比べればずっと」
携帯自体もバックの中に戻しておく。
「最近残業多いって、田中部長も心配してた」
「え、あ……はい。でも、仕事がまだ遅いので仕方ありません」
「……」
城嶋はパソコンのディスプレイで何かを確認しながら片手間で声をかけてきたようだが、こちらも聞きたいことがあったので、ここぞとばかりに会話を続けた。
「あの……私を選んでくれたのは、城嶋さんだって聞きました。本当ですか?」
だが、もちろんそんなこと、誰にも言わない。
自分にできることは、ただ残業して、目の前の資料の内容をパソコンに入力し、成瀬に送信するだけ。
残業は一日に2時間から4時間。つまり、9時出社すると、退社が10時になることもある。今までの生活に比べ、昼からの途中出社がない今はかなりハードであった。
残念なことに、会社は夜間警備員が常駐して、鍵を閉めてくれるので、出て行ってくださいという期限がない。また、家に仕事を持ち帰ってももちろん構わないのだが、情報漏えいになると怖いし、また、家に持って帰ってするくらいなら、このまま集中力を持続して残業した方が早いと考え、毎日この様なのである。
営業部から出るのは、大抵香月が一番最後だった。仕方ない。一番の新人だから、文句は言えない。
期日が厳しく、それまでにできないと成瀬が城嶋に叱られることになる。一番最初の仕事の時、それに失敗して、大きく反省した。それからというもの、残業も、成瀬が叱られることを思えばまだ楽だと思えるのである。
その日、10時を過ぎてなお、作業が終わらない香月は、珍しく城嶋と2人でデスクに明かりを灯し、残業をしていた。
城嶋は終始無口で、さっきとりあえず「お茶かコーヒー淹れましょうか?」と聞いて、ご注文の「コーヒー」をデスクに置いただけである。
外を眺めると、見事な夜景が広がっており、なんとなく巽を思い出した。
こんなむしゃくしゃした日にこそ、「今何してるの?」というどうでもよい電話をしたくなるものである。
休憩のつもりで、バックに入っていた携帯電話を取り出し、巽の番号を探した。
あのディズニーランドのホテルの帰り、
「プライベートの携帯番号、教えて下さいね。用があったらかけますから」
と、彼の携帯を勝手に取り、勝手に赤外線で情報を交換したが、巽はそれをただ見ていた。それだけ、信用されているのだろうか?
「仕事、慣れた?」
突然正面から声をかけられて、驚き、慌てて画面を元に戻した。
「え、あ、はい……最初に比べればずっと」
携帯自体もバックの中に戻しておく。
「最近残業多いって、田中部長も心配してた」
「え、あ……はい。でも、仕事がまだ遅いので仕方ありません」
「……」
城嶋はパソコンのディスプレイで何かを確認しながら片手間で声をかけてきたようだが、こちらも聞きたいことがあったので、ここぞとばかりに会話を続けた。
「あの……私を選んでくれたのは、城嶋さんだって聞きました。本当ですか?」