絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
聞く権利はあると思っていた。
「……田中部長を通して人事と相談したのは私だよ」
思い切って聞いてしまおう、と声に出した。
「どうしてですか? 私、今までお店でフリーしかしたことないし、こんな大役……がどうして私なのか不思議です」
城嶋はようやくディスプレイから視線をはずすと、一度こちらを見た。
「店舗に私服で回る。すると、現場の従業員がいかにいい加減かがよく見えてくる。本社でこんなに提案してきたことも、まるっきり知らなかったり、また知ってても面倒だからと知らないふりしたり。
極端に言えば、作業しているところを一目見ただけですぐにどういう人間なのかが分かる。
その中で、香月なら、ここで一緒に仕事をしていい人だと、思ったんだ」
城島はそう言うとコーヒーを一口飲み、窓の外を見た。
「……そうなんですか……。今も、良かったと思いますか? 私、ここに来て、成瀬さんの足引っ張ってる気がして、とにかくそれだけが心配で頑張ってるんですけど……」
「いや、成瀬の仕事も伸びてる。だから私の選択は間違ってなかったと、思ってるよ」
「……そうなんですか……吃驚しました、ちょっと」
「どうして?」
ちゃんと目を見て聞いてくれる。メガネの奥のシャープな目が、今日はいつもより柔らかく見えた。
「本社に行くの、本当はすごく嫌でした。全然雰囲気が違うし、けど、そうやって思ってくれてる人がいたなんて……」
「香月の名前出したら、大抵の人が知ってた。ただの社員なら皆知らない。それだけ知名度もあるし、田中部長、宮下代理もオーケーしてくれたから、これなら必ずいい結果が出ると思ってた。特に宮下代理は同じ店舗でいたから仕事ぶりが一番よく分かっていたし」
「……そうですね……」
城島が宮下との関係など、知るはずもない。
「……さあ、今の作業、成瀬が待ってるんだろ?」
「はい……今日はしっかり残業して、明日はしっかり寝ます(笑)」
それから2週間もした頃、業績の伸びが数字で表され、達成の結果が既に出ていた。
それからは楽だった。残業もしないで帰れる日があったし、成瀬と無駄話をする余裕さえあった。
だからこの日こそ、お疲れ様と心から言えたと思う、目標達成記念パーティイン居酒屋。メンバーは気の知れた営業部第一課の10名のみ。
香月は成瀬の隣に位置し、乾杯からお疲れ様までずっと笑顔で飲んだ。チョイスしたのは軽いチュウハイやカクテル。隣の成瀬がグラスを空けると、ムキになって
「私も!」
と同じスピードで飲んだ。
「……田中部長を通して人事と相談したのは私だよ」
思い切って聞いてしまおう、と声に出した。
「どうしてですか? 私、今までお店でフリーしかしたことないし、こんな大役……がどうして私なのか不思議です」
城嶋はようやくディスプレイから視線をはずすと、一度こちらを見た。
「店舗に私服で回る。すると、現場の従業員がいかにいい加減かがよく見えてくる。本社でこんなに提案してきたことも、まるっきり知らなかったり、また知ってても面倒だからと知らないふりしたり。
極端に言えば、作業しているところを一目見ただけですぐにどういう人間なのかが分かる。
その中で、香月なら、ここで一緒に仕事をしていい人だと、思ったんだ」
城島はそう言うとコーヒーを一口飲み、窓の外を見た。
「……そうなんですか……。今も、良かったと思いますか? 私、ここに来て、成瀬さんの足引っ張ってる気がして、とにかくそれだけが心配で頑張ってるんですけど……」
「いや、成瀬の仕事も伸びてる。だから私の選択は間違ってなかったと、思ってるよ」
「……そうなんですか……吃驚しました、ちょっと」
「どうして?」
ちゃんと目を見て聞いてくれる。メガネの奥のシャープな目が、今日はいつもより柔らかく見えた。
「本社に行くの、本当はすごく嫌でした。全然雰囲気が違うし、けど、そうやって思ってくれてる人がいたなんて……」
「香月の名前出したら、大抵の人が知ってた。ただの社員なら皆知らない。それだけ知名度もあるし、田中部長、宮下代理もオーケーしてくれたから、これなら必ずいい結果が出ると思ってた。特に宮下代理は同じ店舗でいたから仕事ぶりが一番よく分かっていたし」
「……そうですね……」
城島が宮下との関係など、知るはずもない。
「……さあ、今の作業、成瀬が待ってるんだろ?」
「はい……今日はしっかり残業して、明日はしっかり寝ます(笑)」
それから2週間もした頃、業績の伸びが数字で表され、達成の結果が既に出ていた。
それからは楽だった。残業もしないで帰れる日があったし、成瀬と無駄話をする余裕さえあった。
だからこの日こそ、お疲れ様と心から言えたと思う、目標達成記念パーティイン居酒屋。メンバーは気の知れた営業部第一課の10名のみ。
香月は成瀬の隣に位置し、乾杯からお疲れ様までずっと笑顔で飲んだ。チョイスしたのは軽いチュウハイやカクテル。隣の成瀬がグラスを空けると、ムキになって
「私も!」
と同じスピードで飲んだ。