絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 水曜日、木曜日と連休の前日の火曜日。午後8時から始まった会は、2時間後の10時を過ぎると、半分に人が減った。
 田中部長は奥様の誕生日だからと開始早々に帰ったし、酒に興味のない人達やこの後約束のある者など、つまり暇な独身と真中夫人以外は軽く飲んで帰ったことになる。
「香月さん、何がいい?」
「あ、あのサラダ食べたいなー」
「あれ?」
「うんそう」
 と一言言えば成瀬は小皿にとってくれる頼もしい男だ。香月が既に飲みすぎているのはそのせいだと思われる。
「香月さんなかなかいけるんだね、強い、強い」
「そう、普段全然飲まないけど、飲むと強いんですよ。もう久しぶり、ここ一年くらいこんな飲んでない」
「へー、すごいね」
 言いながらちゃんとグラスから滴り落ち、テーブルに輪になった水滴も、お絞りでふきとってくれる。彼は将来有望だ。
「それにしても、皆忙しいんですね、暇なのは私と成瀬さんくらいなのかな」
「そんなことないじゃん(笑)。宮下代理とかもまだいるし……。香月さん、明日も予定ないの? せっかくの連休なのに」
「ないない(笑)、明日は……そうだなあ……そっか、せっかくだから友達とランチしよう!」
 バックから携帯を探し、まず初めに待ち受け画面で着信などがないか確認。心配しなくても、何もない。
「そういえば最近連絡とってない人がいたのよね……」
 その人は榊ではない。
 コールは音は5回がベスト。でももし、10回鳴らしても出なかったらもう一度かけなおすつもりでいたが、その手間は省けた。
 巽はなんと2回目で早々に出た。
『はい』
「もしもし、私、今電話大丈夫?」
『ああ……何だ?』
 実に3カ月以上音信不通だったのにも関わらず、巽はなんら変わらなかった。
「ランチでもどうかなと思って。私、明日明後日暇なの」
 ただまっすぐ前だけを見る。
『ランチ……明日明後日は無理だな、昼間は』
「ふーん、じゃあいいよ。また今度にする」
『夜なら空いている。それか、朝方か』
「仕事帰り?」
『そうだな。明日の朝方か、明後日の朝方』
「……何時なの、それ?」
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