絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
『2時頃か……』
「午前だよね。いいよ、それで。えーっと、うーんっと何時間後かな、まあいいや。えーっと、どうしようか、私今中央区なの」
『その時間までそこにいるのか?』
「多分いない。一旦帰るから……」
『なら迎えに行く』
「うん、分かった。じゃぁお仕事頑張ってねー!」
 電話は簡単に切れ、約束は簡単に成立する。
「ランチの約束できた?」
「うーん……モーニング?」
「モーニングぅ!? それって、モーニングコーヒーってこと?」
「えー? コーヒー? コーヒーは飲まないけど……」
「どんな人、どんな人?」
「うーん……、うーん……」
 そこでまさか、豪華客船で銃をぶっ放すどこかの社長……だとは説明できない。
「イケメン?」
「うん、多分」
「多分―?」
「一般的にはイケメンじゃないかと思う。好みかといわれたら、迷うけど」
「ふーん、年は?」
「……知らない、そういえば知らない」
「うわー、危険! それって危険な関係?」
「えー? うーん、あ、そうだね、結婚してるかどうか聞こう、今度」
「……へえええ、香月さん、そういうとこ、どうでもいいんだ」
「え、いや、うーん……。どうでもと言われると……多分してないとは思うんだけど……そういえば知らない、というか……つまりそんな深い関係じゃないのよ、きっと」
「えー、モーニングでしょー?」
「いや別にモーニングは食べないよ(笑)。仕事が朝終わるだけー」
「夜の仕事?」
「うーんそうかな、うんそう」
「それも……知らないの?」
「いや、そんなことはない。職場は知ってる」
「へえー……いやあ……香月さんの意外な一面が見れた気がする」
「えー? そんなたいしたこと言ってないよ(笑)」
「いやあ……だって……香月さんといえば有名な人だよ、ほんと、僕も知ってたもん、入社したときから」
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