絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「え?」
 そりゃ皆固まるわな。
「タクシー呼んでもらいました。家族の人も知ってますから、連れて行きます」
 宮下は堂々と言い切る。
「あ、そう……じゃあ頼もうかな。宮下さんもあっちだし丁度いいね」
 太政がなんとなく納得している。
「……じゃあ私、先帰るわよ……。もうほんとやめてよね、新人歓迎会じゃないんだから、こんなところで酔いつぶれるなんて」
「香月さん、今日一年ぶりに飲んだって言ってましたから……」
「ああそれで。酔いが回ったんだろうなあ」
 そんな輪に、「タクシー来ましたよ」と店員さんは元気よく声かけてくれる。
「香月、平気か?」
「ん……う……」
 喋るのが面倒で、黙って息だけする。
 宮下はそれに構わず、真中夫人やら誰の視線にも構わず、その腕を掴んで歩かせようと、慣れた手つきで体に手を回す。
「……じゃぁ宮下さん、よろしく……」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
 全員の声が飛び交い、宮下と香月はみんなに見送られながら、どうにかタクシーの中に消える。
 残された全員は、店の門をくぐりながら、真中夫人の機嫌が最高に悪いことをひしひしと感じていた。それにも関わらずに太政は面白がって、
「宮下さん、香月さんの家族知ってるって、家族ぐるみの関係なのかなあ」
「真籐さんのことじゃないんですか?」
 と、場を和める成瀬。
「えー、そうなら皆知ってるし」
「けど前の店舗でもずっと一緒だったから、やっぱり……気になるんじゃないですかね。あの、部下として」
「そうだよなあ」
 真中は何を考えているのか、立ち尽くしたまま動かない。
「真中さんもタクシーですか? それとも旦那さんが迎えに?」
 太政の嫌味に成瀬は眉をひそめた。真中部長は夜中に妻を迎えに出るような、そんな風ではない。
「……こんな時間に迎えなんて悪いでしょう? 一人で呼んでタクシーで帰りますわ」
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