絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「じゃああ……10時開園だったかなー。として、8時半発? 早いなあ」
「午後からでも十分じゃないのか?」
「あ、前日夜まで仕事ですか? まあいっか、早く終われば」
「朝方まで仕事だ」
「……た、たまには寝ないでも大丈夫ですよ。私もあんまり寝ないから(笑)」
 話していて気づく、にっこり笑えば相手も悪い顔はしない。
「えーと、どこで待ち合わせにします? え、あ、私の車でも別にいいですけど……」
「いい、迎えに行く」
「……私んち……知ってましたっけ?」
「ああ」
「……」
 マンションのことをまさか伝えたことはないが、この人といると不思議なことは特にない。
「じゃあ、うちのマンションに8時半集合!!」
「ああ……。仕事の調整をしておく」
 え、いや……そこまでする必要があるんなら誘わなかったわけでもないんですけど。
 巽は既にロビーの方を向いている。
「あ、じゃあまた!」
 こちらはきちんと目を見てにっこりしたというのに、相手は一瞥するだけで、挨拶もしない。
 ふざけた大人だ。ああいう大人を見て、子供は育ってはいけない。
 
 13日当日。いや、その前日からもずっと。あの日、ホテルのロビーで偶然会って以降、連絡先を知っているものの、巽からは何の音沙汰もない。
 そう、チケットの存在も不明。
 まさか、あそこまで言っておいて、ドタキャンどころか、全て嘘だったとは、まさかそんなことしたって何の意味もないことは承知だが。さすがに当日は起きたときから不安であった。
 本当に来るのか?
 化粧もいつもより丁寧にして、髪の毛もしっかり梳きながら思い出す。
 マンションの同居人であるユーリと真籐に、先月自慢したときのことを。
「ねえねえねえねえ、聞いて、聞いて!」
 帰るなり、暇そうに食事していたユーリと、忙しそうに片づけに精を出している同じ会社の副社長の息子である真籐に言い出す。
「何~」
「来月の13日って何の日だ??」
「えっ……誕生日?」
「ち、がぁう」
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