絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

　相手が時間があるということ知って、一気に目が覚めた。
『……』
「え、場所どこ？」
『新東京』
「30分くらい？」
『そこからだとそうだな』
「行っていい？　新東京マンションってことだよね？」
『……』
「行く。着替えてタクシーで行くから。寝てていいよ、着いたら電話する」
『夜は一人で動くな……』
「平気、マンションのエントランスからエントランスまでだから」
『……着く前に電話しろ』
「……うん！」
　巽はおじさんだから、服くらいなんでもいいや。
　とりあえずジーパンと、ティシャツを簡単に着ると午前4時のロビーへ降りた。既にハイヤーは停車している。
　香月は小走りでロビーを抜けると、車へ乗り込み、「新東京マンションへ」とだけ告げた。
　新東京マンションは、確か、普通のマンションだった……はず。
　香月は、想像しながら考える。まさか、巽が他人とルームシェアをするわけがない。そんな必要、どこにもない。
　予想通り30分ほどで到着したマンションは、造りが少し東京マンションに似ている気がした。だが、中へ入ろうとして、気づく。風除湿には、作りつけのディスプレイが置いてあった。その先の自動ドアの前に立っても、ドアは開かない。
「もしもし、今着いたけど」
『着く前に電話しろと言っただろ……』
「あ、ごめん……。でさ、このテレビみたいなの、何？」
『承認番号が必要だ。番号は、９３５２７６１０８』
「ええっ、待って……タッチパネル？」
『ああ。先に俺が下で待っていればその操作は必要なかったんだがな』
「あ、そういうこと……。はい、番号もう一回言って」
『９３５２７６１０８』
「長いねー。はいはい、開いた。すごいね、厳重」
　自動ドアは、さっと開き、すぐに閉まる。
　だが、中は無人ではなく、もちろんカウンターには管理人がいる。
『カウンターで署名しなければ、エレベータに乗せてはもらえない』
「へえー……」
　指示通り、管理人に尋ねると、署名書を出してくれる。
「はい、書いたよ。それからエレベーターに乗るの？」
『ああ。28階だ』
　そのまま電話を切らずに乗る。
「すごいね……すごいね、厳重だよね。家賃高そう」
『東京マンションよりはな。お前はどうせ無賃だろ？』
「払ってるよ！5万だけど。5万で東京マンションには住めないよ？」
　3人で50万をシェアする高級ルームシェア東京マンションは、普通に考えると10万以上の家賃が必要になる。
『東京マンションなら住めるだろ』
「……まあ……そうなんだけどね」
　レイジがいた時は無賃、今は真藤25万、ユーリ20万、香月5万の割合である。まあ、妥当の範囲内だとは思う。
「はい、着いたよ。それから？　エレベーター降りてぇ……」
『今開ける』