絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
12時45分。2時間以上の会議をへて、ようやくの昼食である。昨晩の残り物のハンバーグが弁当の中に入っているであろう予想は昨晩から思いついていたことだが、いつもの味がすぐに味わえるということは、癒し効果ともいえる。
くたびれた足でとりあえず廊下を急ぎ、時計部に戻る途中、その前方を歩いているのが、誰かということにはっと気づいた。
カールした茶い毛の横に、頭一つ分低い頭。髪の毛は背中の真ん中くらいまであるが、さらさらで、つい手を伸ばしてみたくなる衝動にも頷ける。
よいスーツを着ていることが一目で分かる。既製品ではないオーダーメイドだろう。スーツに拘りがあるのか、おしゃれなようだ。
それも、成瀬の影響だろうか。おしゃれなスーツといえば、成瀬という評価が高い。太政や小笠原もサマサマだが、自分としては好みなのはやはり成瀬の方であった。よりカジュアルでこの職場になじんでいる。
そもそも、営業第一課は、給料も高く更に家柄が良い奴が多い。太政、小笠原に続き、成瀬も実家が非常に裕福なそうだ。香月もそうなのだろうか。育ちがよさそうな気がする。
そこで、ひょい、と目の前の2人が顔をこちらに向けた。
自分の内心が言葉に出てしまつたのではないかと、一瞬ヒヤッとする。
「松長さんも行きません? 食事。僕たち今からオムライスですけど」
香月は無言でこちらを見ている。
「いや、弁当があるから」
その一言が非常に所帯じみた、生活臭い匂いがして一瞬で後悔するが、すぐに成瀬の一言で笑顔が戻った。
「松長さんの奥さんすごい美人なんだよ。社でも有名」
お前の口がうまいことも社では有名だが、それでも悪い気はしない。
「あはは、そんなことないよ」
「お子さんは女の子でしたよね?」
「うん、小学生。成瀬は独身だったよな」
結婚しているかどうかは定かではないが、子供がいないことは確かだろう。成瀬について興味があるわけではなかったが、とりあえず場つなぎに聞いてみる。
「はいそうです。弁当なんて聞くと羨ましくなりますよ」
「そうですよね」
香月は、柔らかな表情でちゃんと会話に入ってくれた。
「香月さんも独身?」
今の流れならセクハラに値しないはず。
「そうですよ、成瀬さんみたいに貴族とはいきませんけど」
「いい身分だよなあ」
香月と同じ視線に立っただけで、満足できる。
くたびれた足でとりあえず廊下を急ぎ、時計部に戻る途中、その前方を歩いているのが、誰かということにはっと気づいた。
カールした茶い毛の横に、頭一つ分低い頭。髪の毛は背中の真ん中くらいまであるが、さらさらで、つい手を伸ばしてみたくなる衝動にも頷ける。
よいスーツを着ていることが一目で分かる。既製品ではないオーダーメイドだろう。スーツに拘りがあるのか、おしゃれなようだ。
それも、成瀬の影響だろうか。おしゃれなスーツといえば、成瀬という評価が高い。太政や小笠原もサマサマだが、自分としては好みなのはやはり成瀬の方であった。よりカジュアルでこの職場になじんでいる。
そもそも、営業第一課は、給料も高く更に家柄が良い奴が多い。太政、小笠原に続き、成瀬も実家が非常に裕福なそうだ。香月もそうなのだろうか。育ちがよさそうな気がする。
そこで、ひょい、と目の前の2人が顔をこちらに向けた。
自分の内心が言葉に出てしまつたのではないかと、一瞬ヒヤッとする。
「松長さんも行きません? 食事。僕たち今からオムライスですけど」
香月は無言でこちらを見ている。
「いや、弁当があるから」
その一言が非常に所帯じみた、生活臭い匂いがして一瞬で後悔するが、すぐに成瀬の一言で笑顔が戻った。
「松長さんの奥さんすごい美人なんだよ。社でも有名」
お前の口がうまいことも社では有名だが、それでも悪い気はしない。
「あはは、そんなことないよ」
「お子さんは女の子でしたよね?」
「うん、小学生。成瀬は独身だったよな」
結婚しているかどうかは定かではないが、子供がいないことは確かだろう。成瀬について興味があるわけではなかったが、とりあえず場つなぎに聞いてみる。
「はいそうです。弁当なんて聞くと羨ましくなりますよ」
「そうですよね」
香月は、柔らかな表情でちゃんと会話に入ってくれた。
「香月さんも独身?」
今の流れならセクハラに値しないはず。
「そうですよ、成瀬さんみたいに貴族とはいきませんけど」
「いい身分だよなあ」
香月と同じ視線に立っただけで、満足できる。