絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 目が覚めて、思う。朝になって巽がいないことが、どれほど自分を苦しめていたのか……。 
 太い腕に香月の頭をちゃんと乗せてくれている巽は、すやすやと眠りについている。香月が見る、初めての寝顔であった。
 時計の場所が分からなくて、窓を見る。カーテンの隙間から薄暗い光が差し込んできているが、もしかしたら、今日はまだ、4時くらいかもしれない。
 不安になって、巽の顔を見つめた。身体だけが近くなりすぎて、心が置いてけぼり。
 どんな気持ちで抱いているんだろう。
 何が良くて、ここに連れて来たんだろう。
 誰でもいい、が、巽の日常なのか。
 それとも、少しは選んでくれているのだろうか。
 そう考えていると、瞳からぼろぼろと涙が出て、止まらなかった。
 巽の、腕が濡れていくのが、自分の頬が濡れることでよく分かる。
 偶然か、濡れたせいで起きたのか、巽はぐっと力を入れて、香月を抱きしめた。
 想いが通じたのかもしれないと、ただ腕を首へ回す。
 ぎゅっと抱きしめる。
 明日が来ないように、別れが来ないように、離れないように、思い切り、力を込める。
 明日さえこなければ、ずっと一緒にいられるのに。
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