絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
悩めるだけ悩んでも、答えは出ない。
それは、空高く、抜けているからでも、胸の底がつかえているからでもない。
巽が連絡をくれない、からでもない……。ではない。連絡をくれないから。
先週、明日は休みだと言いながらも、結局朝食を食べて急な仕事に出て行ってしまい、香月も仕事に行かざるをえなくなった。
溜息は大きくなるばかり、胸がつかえて食欲がわかないし、巽の意図も分からない。
だが、木曜になる今日ならまた、電話がかかってくるかもしれないという、算段はあった。
午前、一時。
眠っているところに、やはり電話が鳴った。
「もしもし!」
何度も、電話に出ない自分や、巽に罵声を浴びせる自分が浮かんだのに、それは、浮かんだだけで、やはり、本人を目の前にすると尾を振る犬になってしまう。
『もうじき東京マンションに着く。降りて来い』
「……っ、うん!」
勢いよく、元気に返事までしてしまう。
『エントランスで待っている』
「分かった、すぐ着替える」
待たせておけばいい、10分くらいどうってことない。そう考えているはずなのに、体は焦り、すぐに玄関から出てしまう。まだ、エントランスに高級車は停車していないのに。
逆にこちらが10分ほど待ってから、リムジンは堂々とエントランスに横づけしてきた。風間はちゃんとドアを開け、仕事をこなしてくれる。
香月はいつもの場違いにカジュアルな軽装をものともせず、乗り込んだ。
「これから中央ホテルへ向かう」
まだ長いタバコを消しながら、数センチ開けたサイドウィンドの方へ一息吐いた巽は、とても疲れているように見えた。
「え、あそう……」
ここからまだ一時間はかかる。
「明日は休みと言っていたな?」
「え、あ、うん……そう、休み。あなたは仕事なんでしょう? 休みなしなんて、大変だね」
「そうでもないさ。仕事の合間に休憩はしている」
向い合せで座り、こちらの目を見てちゃんと話をしてくれると、まるで私のためだけに時間を割いてくれたような気持ちになって、なんでも信じこんでしまう。
「……何して? テレビ見たりとか?」
「いや」
「……」
あそう……。
「あのさ……」
「…………」
「あの……」
それは、空高く、抜けているからでも、胸の底がつかえているからでもない。
巽が連絡をくれない、からでもない……。ではない。連絡をくれないから。
先週、明日は休みだと言いながらも、結局朝食を食べて急な仕事に出て行ってしまい、香月も仕事に行かざるをえなくなった。
溜息は大きくなるばかり、胸がつかえて食欲がわかないし、巽の意図も分からない。
だが、木曜になる今日ならまた、電話がかかってくるかもしれないという、算段はあった。
午前、一時。
眠っているところに、やはり電話が鳴った。
「もしもし!」
何度も、電話に出ない自分や、巽に罵声を浴びせる自分が浮かんだのに、それは、浮かんだだけで、やはり、本人を目の前にすると尾を振る犬になってしまう。
『もうじき東京マンションに着く。降りて来い』
「……っ、うん!」
勢いよく、元気に返事までしてしまう。
『エントランスで待っている』
「分かった、すぐ着替える」
待たせておけばいい、10分くらいどうってことない。そう考えているはずなのに、体は焦り、すぐに玄関から出てしまう。まだ、エントランスに高級車は停車していないのに。
逆にこちらが10分ほど待ってから、リムジンは堂々とエントランスに横づけしてきた。風間はちゃんとドアを開け、仕事をこなしてくれる。
香月はいつもの場違いにカジュアルな軽装をものともせず、乗り込んだ。
「これから中央ホテルへ向かう」
まだ長いタバコを消しながら、数センチ開けたサイドウィンドの方へ一息吐いた巽は、とても疲れているように見えた。
「え、あそう……」
ここからまだ一時間はかかる。
「明日は休みと言っていたな?」
「え、あ、うん……そう、休み。あなたは仕事なんでしょう? 休みなしなんて、大変だね」
「そうでもないさ。仕事の合間に休憩はしている」
向い合せで座り、こちらの目を見てちゃんと話をしてくれると、まるで私のためだけに時間を割いてくれたような気持ちになって、なんでも信じこんでしまう。
「……何して? テレビ見たりとか?」
「いや」
「……」
あそう……。
「あのさ……」
「…………」
「あの……」