絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
さっきから目が開かない。ずっと閉じている。眠っているのかもしれない。
窓の外を見た。景色は、降り出した雨のせいでよくは分からない。
ただ、巽は静かに息をしているし、風間は喋らない。
小さく息を吐いた。その、息の音が想像以上に聞こえたので、溜息をつくのはやめた。
足を組み、膝を手で支えて仮眠をするその姿は、大人の男そのものだった。スーツの隙間から見えた腕時計がキラリと光り、良い物であることが分かる。きっと、何百万もする高級品に違いない。
それに対し、2千円のティシャツと3千円の7分丈のジーパンを履いて、安物のバックを手にしている自分。来月、もう27歳になる。少しは良い物を持たないといけない時期になってきているのかもしれない。友達と呼べる人が職場に多く、職場では晩婚の人が多いため、榊と出会った結婚式以来、結婚には無縁の香月だが、そろそろ、そういうことを考えなければいけない時期にきている。30までに結婚したいと、10代の頃は思っていた。今も思わないわけでもない。
だとしたら、宮下……。だけど、それは、違う気がした。それと同時に、巽も選択肢から外れる気がした。
巽と出会って以来、自分自身を見直すことが多くなった。
どういう経緯で社長になったのかは分からないが、事業に成功し、秘書を雇い、リムジンを乗り回して、高級スーツに身を包む。
財布を見たことはないが、多分きっとアメックスやダイナースのプラチナカードが並び、現金だって惜しまず使うに違いない。
それなのに、こんなにどうでも良い私を迎えに来る。
気の利いたことが言えるわけでもなく、仕事の話もできず、プライベートの話もできない。顔が特別に良いわけでも、グラマラスなわけでも、おしゃれなわけでも、肩書があるわけでも、なんでもない。英語すらうまく喋れず、生活の範囲は知れているし、会話する範囲も限られている。
……遊んでいるのだろう。
今少し、何かが面白くて、ほんの近くまで来たから、来たと電話すればすぐに出て来るから、乗せて行って体を使ってやっているだけだろう。
「巽様、もうじき着きます」
一時間近くは静かだっただろう。突然の、風間の声に、巽はようやく目を覚ましたようだ。
ただ、あくびも何もせず、首をぐるりと回しただけだが、やはり相当疲れているようではある。
私のせい?
いや、そうではない。
会いたいと言ったって、会ってくれないに、決まっている。
巽はただ自分の意思で動いているだけだから、疲れていてもいつものそれがしたいと思って、東京マンションに寄っただけに違いない。
窓の外を見た。景色は、降り出した雨のせいでよくは分からない。
ただ、巽は静かに息をしているし、風間は喋らない。
小さく息を吐いた。その、息の音が想像以上に聞こえたので、溜息をつくのはやめた。
足を組み、膝を手で支えて仮眠をするその姿は、大人の男そのものだった。スーツの隙間から見えた腕時計がキラリと光り、良い物であることが分かる。きっと、何百万もする高級品に違いない。
それに対し、2千円のティシャツと3千円の7分丈のジーパンを履いて、安物のバックを手にしている自分。来月、もう27歳になる。少しは良い物を持たないといけない時期になってきているのかもしれない。友達と呼べる人が職場に多く、職場では晩婚の人が多いため、榊と出会った結婚式以来、結婚には無縁の香月だが、そろそろ、そういうことを考えなければいけない時期にきている。30までに結婚したいと、10代の頃は思っていた。今も思わないわけでもない。
だとしたら、宮下……。だけど、それは、違う気がした。それと同時に、巽も選択肢から外れる気がした。
巽と出会って以来、自分自身を見直すことが多くなった。
どういう経緯で社長になったのかは分からないが、事業に成功し、秘書を雇い、リムジンを乗り回して、高級スーツに身を包む。
財布を見たことはないが、多分きっとアメックスやダイナースのプラチナカードが並び、現金だって惜しまず使うに違いない。
それなのに、こんなにどうでも良い私を迎えに来る。
気の利いたことが言えるわけでもなく、仕事の話もできず、プライベートの話もできない。顔が特別に良いわけでも、グラマラスなわけでも、おしゃれなわけでも、肩書があるわけでも、なんでもない。英語すらうまく喋れず、生活の範囲は知れているし、会話する範囲も限られている。
……遊んでいるのだろう。
今少し、何かが面白くて、ほんの近くまで来たから、来たと電話すればすぐに出て来るから、乗せて行って体を使ってやっているだけだろう。
「巽様、もうじき着きます」
一時間近くは静かだっただろう。突然の、風間の声に、巽はようやく目を覚ましたようだ。
ただ、あくびも何もせず、首をぐるりと回しただけだが、やはり相当疲れているようではある。
私のせい?
いや、そうではない。
会いたいと言ったって、会ってくれないに、決まっている。
巽はただ自分の意思で動いているだけだから、疲れていてもいつものそれがしたいと思って、東京マンションに寄っただけに違いない。