絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 風間の声から5分ほどでホテルのエントランスに着く。そこで、香月と巽は、同時に外へ出た。
 風間は少し先に中へ向かい、チェックインの作業を済ませている。
 前回は香月一人でこのホテルのロビーを素通りしたが、いつもは待合のソファに堂々と腰かける巽がいたんだと、立ってバックを握ったままじっとその様子を見つめた。
「………」
 疲れているの?
 聞いても無駄なような気がした。疲れているかいないかなんて、どちらでも、何にも関係しない。
 風間は、こちらに合い図をし、先に歩き始める。巽もエレベーターに向かって歩き始めた。香月はその後を追う。
 エレベーターの前で、風間は巽にカードキーを手渡すと、中には入らず、ドアの外で一礼した。2人きりを乗せたまま、ドアはゆっくりと閉まる。
 ガラス張りのエレベーターからは外がよく見えたが、雨がまだ降っていて、景色どころではない。
 そんな、不必要なことを考えるのは、巽に抱きつかれる妄想を振り払いたいから。
 抱きついてこないことを、不満に思っているわけではない。ただ、そんな妄想をしている自分に、自己嫌悪しただけだ。
 エレベーターはすぐに軽い音を立てて、到着する。
 香月は、その期待から逃れるように、先に降りて進んだ。
 巽が、巽が……。
「おい」
 背後から呼ばれて、驚いて振り返る。
「……」
 相手は顎で、指示する。
 こっちに来い、道を間違っている、と。
「……」
 大きな溜息が出た。
 巽が疲れているのは、自分のせいではない。顎で使われるような関係だとしても、それは自分のせいではない。
 廊下を一番奥まで進み、キーが開くのを待つ。
 愛されたくて、抱かれているのではない。セックスが好きで、抱かれているのだと、そういう意識でもってここに来たことにしなければならないと、自らドアを開けて中に進んだ。
「わっ!」
 入った途端、後ろから強く体ををひっぱられ、柔らかい衝撃と共にベッドになだれ込む。
「柄にも合わず、悩み事か?」
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