絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 馬乗りになった巽に耳元でささやかれ、反応しそうになる自分を理性で抑えようと目を堅く閉じた。
「何だ? 何を考えている」
 目を閉じることに意識を集中させたせいで、ハッと気がついた時には、ティシャツから腹が見え、ジーパンがずり下ろされようとしていた。なんというなしくずしの早さ。
「…………」
 言うべきか、言わざるべきか、だとしたら、どう言うべきか、言葉が出そうで、出ない。
 見る間に、服が脱がされようとしていく。
「あ、ちょっ……」
 話、聞こうとしてくれてるんじゃ、なかったの!?
「ちょっと!!」
 太い右手首を制するために、左手で力を入れて掴んだ。
「何だ?」
 今更目を見て言われても……。何だって、言われても……。
「…………」
 言葉が、出ない。何だって、言われても……。
「悩みがあるなら、忘れろ」 
 巽が少し力を入れただけで、簡単に左手は振りほどかれ、更にのしかかって来る。
「…………」
 見据えて、忘れろと言っているのか、
 それとも、新聞の切り抜きのような仕事をしていると思われているのだから、大した悩みなんて、ないと思われているのか……。
 胸が一気に熱くなり、目の前がぼやけた。
 やっぱりしたくない、そういうのは嫌だと、手に力を込めて、分厚い肩をつかみ、体から剥がそうとしたが、胸に軽い快感が走ったこともあり、体がのけ反ってうまくいかなかった。
 吐息のような声が漏れてしまう。
 違う、そうじゃない、嫌。そういうのは、嫌なんだと、目を強く閉じて、両手に力を込めた。
 それでも、気付いてはくれず、更にジーパンを下げようとしてくる。
「いや……」
 小さく言ったが、伝わっていない気がして、もう一度声を振り絞った。
「嫌!」
 目を開いたと同時に視線が合い、びっくりする。思った以上に、部屋に声が響いた気がした。
「……泣くほどのことか?」
 どう返すべきなのか分からなかったが、
「分かんない」と目を逸らして、素直に言った。
 そう、本当に、それが泣くほどのことなのか、自分でもよく分からなかった。
 巽にセックスフレンドのように扱われながら、しかもそれを承知しながら、会っているのに、大切に扱ってほしいと泣くことが、泣くほどのことなのか、全く、分からなかった。
「ガキが……」
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