絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 いや、そもそも、言い出す勇気はない。
「ごめん……」
 謝っておかなければならない。そして、泣いてはいけない、絶対に。
「どんな不満だ?」
「……」 
 思いがけず質問され、話を聞いてくれようとするその姿勢に、香月は困惑の表情以外に、することができない。
「ふま、ん……」
「言いたいことがあるんだろう? 何を気にしているのか知らないが、言ってみろ。お前の世界が変わるかもしれん」
「……」
 世界が、変わる……。
 その一言に大きく心が揺れた。視線の先の白いシーツに、自分達の関係をどう表していくのか色をつけることができるかもしれない。
「あのっ……」
 泣くことだけはしてはいけない。
 そう心に強く決めて、意を決して、放った。
「あの…………」
 言おうと決めたのに、今さら、どう言葉にすればいいのか、迷ってしまう。
「もっと会う時間がほしいか?」
 思いがけない言葉に、香月は顔を上げて見つめた。
「何だ? 言ってみろ」
 言ってもいいのだと確信した。
「私のこと……、どんな風に思ってるの?」
「……」
 巽はこちらを見つめながら、煙と一緒に小さく息を吐いた。
「俺なりに時間を割いて会っているつもりだ。そうするだけの価値はあると思っている」
 泣かないと決めたのに、涙は溢れに溢れてくる。
「わかんない。私、セックスフレンドなの? それでも別にいいけど……」
「いいとは思ってないから、泣いてるんだろうが」
「………」
 見透かされて、安心した。
「理解してるつもり。つもりだけど。私とあなたは……ずれてるような」
「ずれているとしたら、お前の気持ちだけだろうがな。大半は思い過ごしだ。下らん。たかがセックスフレンドに時間を遣うほど、俺は暇じゃない」
「じゃあ。じゃあ、私たちって、付き合ってるの!?」
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