無題
「百花もいいインテリアになるって言ってたし、なかなかこの部屋にもあってるな。」
すこし絡まってしまった黒髪をそっと解いてやった。
その黒髪は真っ直ぐではなく、毛先の方にかけてかるくうねっている。
おそらく長い月日の間に、直毛だった髪はすこしずつうねってしまったのだろう。
吸い込まれるような黒い瞳が真っ直ぐに千早を見つめていた。
その可愛らしさにしばらく千早は見とれていたが、はっとしたように首を降り、自室の片付けに向かった。
その夜。千早は片付け終わった自室にいた。
木製の机に向かって黙々と作業をしている。
長方形の紙に何かを書いているようだった。
【東条探偵事務所 小さなことから大きなことまで、お気軽にご相談ください。連絡先 03-○○○○-×××× 住所 東京都○○区×× ○-○-○】
机の隅には同じことが書かれた紙が何枚も積み重ねてあった。
なんとも不器用だが、そこからは千早の誠意がしっかり伝わるようなものだった。
ごとん。
「あれ。何か音がした気がするな…」
どうやら下の階でもの音がしたらしい。
作業の手を止めて下の階に降りる。
時間は22時。
外は暗闇に包まれているが、天井のドーム型のガラス屋根から差し込む月明が部屋を明るく照らしている。
肉眼でもはっきりと部屋の中を見渡せる程だ。