無題
「やっばり綺麗だよねぇ、この人形!」
百花は目をきらきらさせながらその人形を見つめていた。
「この人形…本物の人間みたいだね…この人形っぽい関節がなければ…」
目の前の木箱の中で横たわる美しい人形に吸い込まれる様に見つめながらぽつりと呟いた。
「本当にねぇ…私も子供のときにおばあちゃんに見せてもらったの、千早が生まれる前ね。凄く綺麗だったからよく覚えてる。あの時からちっとも古びた感じもないし、汚れてもない。」
祖母との思い出のアルバムをゆっくりめくる様に百花は話出した。
「初めて見せてもらったすぐ後におばあちゃんは病気になってしまったから、この人形を見る機会もなくなったけど、こんなところにあったんだね。おじいちゃんはあんまりこの人形が好きじゃなかったみたいだったしね。」
「なんでおじいちゃんは好きじゃなかったの?」
「あれ?なんでだっけ……えっと……」
うーんうーんと頭を抱えて一分程経つと、はっとして
「そう!そうだ!おばあちゃんね、この人形は生きてるんだって言ってたの!」
すっきりしたような顔をする百花の横で、もう一度聞き返したいような顔をした千早がぽかんと口を開けてた。
それを察したのか百花は少し困った顔をして続けた。
「私に見せてくれた時から言ってたんだけどね『この人形は月の光が指す夜になると人の姿になってお喋りするのよ』って。
子供の時は信じてたけど今になると、ただのおばあちゃんの妄想だったんだなって思うの。
だって人形が喋るわけないし、人の姿になんかなるわけないでしょ?
そういうこともあっておじいちゃんも気味悪がってたの。」
「確かに人形が喋るなんて科学的にも理論的にもあり得ないよね。おばあちゃん、父さんと母さんがいなくなってショック受けてたから、それで現実逃避したかったのかもね…。」
2人は机の上の写真に目をやった。
そこに祖父母、千早、百花、そして千早達の両親と思われる人が写っていた。