無題
「それにしてもこれどうしようかな…百花持ってかない?」
「うーん。その子可愛いから持っていきたいけど、あいにく、荷物がこれ以上増えると困るんだよねぇ。」
千早は、俺は男だからとでも言いたげな顔をした。
しかし百花も眉を八の字にしていかにも、無理なのよという顔で返した。
すると百花は、はっと何かを閃いた。
「せっかく下のエントランス使って探偵事務所開くんだから、アンティークとして飾っておけばいいじゃない!バランス的にはいい感じだと思うけど。」
「えぇ!嫌だよ!依頼人の人に変な目で見られるのは。」
千早を見下ろすような姿勢で立っている百花に、人形の入った木箱をずいっと差し出した。
しかしその差し出すタイミングとほぼ同じタイミングで百花は「そろそろ行かなきゃ!」と千早に背を向けそそくさと一階へ降りていった。
「百花め、さてはこの人形が怖いんだな。夜中に動き出すなんて信じてるもんだから引き取りたくないんだ!」
そうつぶやくと、千早は再びゆっくりと人形に目を落とした。
そこには先程と全く変わらず愛らしい表情の少女人形が横たわっていた。
しかし、先程よりもどこか人間のような柔らかさが出てきたような気もしていた。