last memory
知り合いなど、誰もいないから自分の居場所を知る相手はどこにもいないのだった。
それについさっき、死ぬ覚悟をしたばかりなのだ。
神様にもお願いしてしまったのだから、ここで
「そうだったんですか、じゃあ…」
と、死ぬことを止め、この男にホイホイとついていったら、一見少女にも見えるが仮にも男としてのプライドが傷つくし、神様への願いを「やっぱり無しに」とか言ったらそれこそ罰当たりだ。
例え、この人になにを言われても、自分は死ぬんだ、と少年は決心した。
だが男はなにを言うわけでもなく、右手で少年の左手を取り、手の甲にキスを落とした。
「なっ?!」
少年は目を大きく見開き、驚いて捕まれている手を引っ込めようとするが、強い力で引き戻された。
男の強い瞳が少年の体の自由を奪い取る。
男は少年の前に膝まずき、握っている少年の手を額につけ、契りらしきものを唱えた。
「我が主よ、俺はもう一度あなたと契約を交わそう。
俺の体が尽きるまで、あなたのそばにいて守ることを誓おう」
男は左手の人差し指で、少年の手の甲に何かを描いた。
手の甲には紫色で見たこともないような模様が光り浮かび上がったが、すぐに消えた。
「っ…」
すると、ふっと体の力が抜け、がぐらりと傾き、少年は膝から崩れ落ちていく。
それを男が支えて抱え込んだ。
包まれた暖かさとは裏腹に、夜の冷たい風が少年の頬を撫でていく。
途切れ行く意識の中で、少年は自分の名前を呼ばれ気がした。
「憐……あなたのやるべき事を…あなたの使命を思い出して。あなたは神の子、シグナルナンバーを……」
途切れとぎれのその声は、少年にとって懐かしく、愛しい声だった。
「母……さん?」
少年はその主を無意識に呼び、声のする方へ手を伸ばし、何もない空を握った。