last memory
たぶんまだ僕に話したくないのだろう。


魁が言いたくないのならそれでいい。


魁から言ってくれるのを待つだけだから。


「そう。ならいいけど……それより、速く剣の稽古しようよ!」


「あぁ」


短く答えた魁の手を引っ張り、外に連れ出す。


太陽はまだ昇っていなくて、辺りは暗かった。


だが、僕らのする剣の稽古は暗いところではないと意味がない稽古だ。


いかに暗闇のなかで相手を認識し攻撃するか、魁はいつもそう言い僕に稽古をつけた。


僕の容姿が容姿だから、女の子と勘違いした変な人に絡まれることが多かったけど、自分で身を守れるようになった。


これも、魁のおかげ。


あの時魁と会っていなかったら、今の僕はいないし、多分この世にいないと思う。


そんな魁への感謝を心のなかで考えていたのもつかの間、背後に気配を感じた。


「よそ事を考えるな」


「えっ?」


ヤバイと思いとっさに剣を出した。


金属音の交わる音が聞こえ、剣にのしかかった重さは腕を痺れさせた。


「くっ……」


再び気配は闇へと紛れ込んだ。


月光だけが照らしているこの場所はとても暗く、何も見えない。

「ふぅ」


大きく深呼吸をし目を閉じる。


集中しろ。


音だけを聞くんだ。


魁が毎回言っていることを、自分に言い聞かせ、感覚を研ぎ澄ませた。


すると右から草の踏まれる音がし、とっさにその方向へ剣をふる。


「はっ!」


ガキンと剣と剣が再び交わる。


お互い剣を押しながら、顔が近づく。


「強くなったな、憐」


「へっ?」


魁はまた天使のような笑顔を浮かべ笑った。


魁が自分のことを誉めてる……

これは夢?


そう思うのにも無理はない。


魁は滅多に誉めてくれないから。


「でも」


魁がニヤリと口角をつり上げた。


「へ?」


いったん魁が自分から離れたかと思うと、再び踏み込んできた。

「重心が高い」


魁は姿勢を低く踏み込み、下から僕の剣を掬い上げ弾いた。


「っ!」


剣は音をたてながら回転し、遠くの草に刺り、そして喉には剣の切っ先がすれすれで止まっていた。


「あ……」


今まで身体中に入っていた力が一気に抜けそのまま崩れて尻餅をついた。


「だ、駄目だぁ~。やっぱり魁には勝てないや」
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