僕らのシナリオ



外はもう暗くなっていた。

真っ暗ではないにしろ、薄暗い景色の中で部活終わりらしい生徒たちがゆっくりと帰っていく。



「宮田さんの家ってどのへん?
中野の家の近く?」

「うん。ゆうちゃんの家の前の通りをちょっと行ったとこ。」

「そうなんだ。
じゃあうちまでの通り道だからちゃんと送ってくよ。」

「やった!ありがとね。」

「いいよいいよ。」


僕は自転車を引きながら、お気に入りの写真スポットの場所の話をした。

宮田さんも本当に写真が好きみたいで、僕の話を楽しそうに聞いていた。



思えば、まともに女子と話したのは小学校以来かもしれない。


小学校のころだって、あまりしゃべるほうではなかったというのに、中学に入ってからはさらにしゃべる機会はなくなっていった。



「どうしたの?」


宮田さんが不思議そうに顔を覗き込んでくるので首を振る。


「ん、なんでもない。
そういえば球技大会のプリントいつまでに作んなきゃいけないの?」

「えっとね〜来週かな?
だからそれまではお邪魔させてね。」

「うん。僕はいつもあそこにいるし。
他の部員はたいてい来ないから大丈夫だよ。」


その僕の言葉に、宮田さんは少し驚いたような顔をする。


「そうなんだ。
じゃあ、三宅くんはなんで毎日パソコン室に通ってるの?」


宮田さんの質問に、次は僕が驚いたような顔になる。


考えたこともなかった。


確かに他の部員も来ないわけだし、シナリオ作りだって迫られているわけじゃない。

むしろ今は3年生の先輩がシナリオを書くのが普通で、僕がシナリオを作る必要はないんだ。



「………なんでかな。
とくに理由はないんだけど…

ただシナリオを書くのは好きだし、あそこみたいな静かな場所で静かに過ごすのも好きだから。

良い隠れ家って感じかな。」


適当に口にしたつもりだったが、思った以上に隠れ家という言葉にしっくり来て、我ながら納得する。


確かに、良い隠れ家。



「なるほどね〜。
確かにあそこ落ち着くよね!」


そう言って微笑んだところで、宮田さんが道の先を指差す。


「ほら、あの白い壁の家が私の家。

ゆうちゃんの家とも近いでしょ?」


少し振り向いて、見慣れた中野の家を指差す宮田さんに、納得したようにうなずく。


いつの間にか、通りすぎていた。



< 10 / 131 >

この作品をシェア

pagetop