僕らのシナリオ
「ほんとに…………ほんとに私でいいの……?」
「え?」
飯島の手首からゆっくりと手を離す僕の右手を、飯島は逆に震える手で握る。
「わ……私は…………人と話すのも苦手だし……とろいし……どじだし………かわいくもないし…。
良いとこなんか……ないんだよ…?それでも………」
「そんなこと言わないでよ。」
「…………え?」
なんだか、緊張とかそういうのを通り越して、僕の心は今やたら冴えていた。
むしろ、飯島の言っていることに、少し怒っていて。
僕は僕の手に添えるように握る飯島の手を、強く握る。
「そんなこと、言ってほしくない。」
「る、泪く……」
「僕は、飯島が好きなんだよ。」
「……………」
「飯島が自分のことどう思ってようと、僕は飯島が好き。」
握っている飯島の細く白い手を見つめ、もう一度握りしめる。
「……好きな人のこと、悪く言われたくない。それが…本人でも。」
そこで飯島の手を見て、突然我に返る。
僕は、今何を口走って……
それよりも今僕は飯島の手を………
「わ………わわ!ごめん!」
「へ?あ、あ、えっと、だ、大丈夫!」
思わず焦って飯島の手を離し、顔を隠すように次は右腕で口元を覆う。
「わ、わー……僕は今……ああ……」
あまりにも恥ずかしすぎて、頭に全身の血が上ってきたみたいに顔が熱くなり、頭が爆発するんじゃないかと思うほど強く脈打つ。
一気に吹き出す汗をぬぐうように顔を両手でこすりながら、そのまま顔を覆ってうつむいた。
ため息をついてそのまま黙り込む僕に、飯島が横で小さく笑いはじめるのがわかる。
「…………笑わないで。」
切実な思いでそう小さくうめくと、飯島がさっきよりも声を大きくして笑っているのが聞こえた。
「あはは、はは、ご、ごめんね。
でも、あんまりにうれしいから……」
僕が指の隙間から飯島を見ると、飯島は本当にうれしそうに、止まらない笑いをこらえるように両手で口を押さえていて。
その笑顔を見ると、恥ずかしいのもどうでもよくなってきて、もう一度ため息をついて手を離す。
「笑いすぎだよ……もう、恥ずかしい……。」
「ふふ、ううん、すごく素敵だった。」
「からかわないでよー。」
「からかってないよ。ほんとにそう思う。」
飯島は笑いすぎて少し赤らんだ頬を両手で包むようにして、うつむいた状態で飯島を見上げる僕に視線を合わせる。
黒い髪が、肩からさらさらとこぼれる。