僕らのシナリオ




「あんなに、良く言ってもらったことってなくて……なんて言ったらいいかわからないけど…。

ありがとう。」


「…………。」



もう目を合わせていられなくなって、僕は目をそらして目の前の川を見つめた。

そんな僕にまた飯島は笑って、さっきよりずっと緊張のほどけた声で、ゆっくりと話しはじめた。




「………昨日は、ほんとに信じられなかったの。

私は自分に自信があるわけでもないし、好きって言ってもらったことなんて、もちろんなかったから。

それに………泪くんに言ってもらえるとは、思ってなくて…」



飯島の言葉に思わず飯島のほうを向こうとすると、飯島が僕の目を隠すように手を出してくる。


「だめ。もう少し、あっち向いてて。」

「えぇ?」


変に思いながらも、無理矢理見るのもどうかと思うので、おとなしくまた川を見る。

視界の端の飯島がどんな顔をしているのかは見えないけど、僕が飯島のほうを見ないのを確認してから話すのがわかった。



「あのね、あんまり考えすぎると言えないから簡単に言うね。」

「ん?まあ、何かわかんないけど、いいよ。」


「私も泪くんが好き。」




あれ?

いま飯島はなんて………



「だ、だめ!まだこっち見ちゃだめ!」

「だ、だって……」

「とにかくだめ!」


いまいち現実が飲み込めないうえに、飯島に飯島を見ることを禁じられてもうわけがわからなくなっている。

情けないくらい自分がうろたえているのがわかるけど、もう自分ではコントロール不能の状態。




「え、ちょ、ちょっと待って。いまいち状況が……な、なに?なんて言った?」

「だ、だから、泪くんが好きなの!」

「…………えっと……」



僕がぐちゃぐちゃなようで真っ白な頭をなんとかしようとしていると、まだ見ちゃいけないらしい飯島が川の中の足をバシャバシャと動かす。



「き、昨日だって私が言おうと思ってたとき泪くんが先に言っちゃうから……!」

「昨日……?えぇ?!そうなの?」

「そ、そうだよ!」



それに思わず僕は笑ってしまう。


「……ぷ。あはははは、はは!」


あんなに今日悩んでいたのに。

結果は昨日出ていたんだ。



あまりに僕が笑うから、はじめは不思議な顔をしていた飯島もそのうちつられて笑いはじめる。






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